『犬島 くらしの植物園』は草花を観賞するための植物園ではない!?その喜びを共有し、「くらし」を作る仕組みとは

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「犬島 くらしの植物園」は、いわゆる樹木や草花を観賞する植物園ではなく、訪れた方が自然に身を置き、植物に手を入れることで「くらし方」についてともに考え、長い期間をかけてつくり上げていく場所です。今回は自然とともにくらす歓びを共有する場所である「犬島 くらしの植物園」について紹介します。

この記事のポイント

彩り豊かな犬島の集落

岡山市唯一の有人島である犬島は、歩いて1時間ほどで一周できる小さな島です。島で暮らす人の多くは家の近くの畑で野菜や花を育てており、集落を歩いていると彩り豊かな風景を見ることができます。

犬島では、2010年から集落に犬島「家プロジェクト」を展開しています。建築家・妹島和世により設計されたギャラリーが集落内に点在し、犬島の生活や歴史を反映した様々なアーティスト作品に出合うことができます。

犬島「家プロジェクト」A邸 ベアトリス・ミリャーゼス「Yellow Flower Dream」2018
写真:井上嘉和

その延長上に位置づく新たな試みとして2015年春より、妹島和世による「犬島ランドスケーププロジェクト」が始動しました。犬島全体をひとつのランドスケープ、建築として考え、島民や各地から訪れた多くの人の手を通じてひとつの環境を作りながら、ゆっくり滞在できる時間と場所の創出を目指す長期プロジェクトです。その中で「犬島 くらしの植物園」の構想が具体化していきました。

「犬島 くらしの植物園」ができるまで

今回、「犬島 くらしの植物園」を企画・運営する「明るい部屋」の橋詰敦夫氏にお話をうかがいました。

「明るい部屋」の橋詰敦夫氏

「犬島 くらしの植物園」は建築家の妹島和世と、ガーデナーの「明るい部屋」による共同プロジェクトです。このプロジェクトを始めるきっかけには犬島ならではの理由がありました。

「2010年から公開されている犬島『家プロジェクト』の庭をつくることが犬島に関わることになったきっかけでした。当時は東京から通って妹島さんと話をしながら庭をつくりました。珍しい花や知らない花があるから、島のおばあさんたちが毎日来てくれて、そのうちお茶を持ってきてくれたり、差し入れしてくれたり、晩ご飯食べにおいでと言ってくれるようになって。東京で庭を作っていた時はそんなことあり得ない。この島のおばあさんたちは本当に花が好きで、色んな花を持ってくる度に見に来て“あれは何だ”“これは何だ”とかコミュニケーションがあっという間に起こる。それがちょっと感激だったわけですよ」

「日本は植物を媒介に地がつくられ、コミュニティがある。みんなで考えてシステムをつくったり、伐採したり、自然に手を入れることによって生業が生まれ、景観を美しくする。植物を媒介にコミュニケーションや結びつきが起こるというのが一番の興味だったんですよ。そこで、くらしのための植物がある場所をつくりたいなと思いました」

橋詰氏は2016年に東京から犬島へ移住し、長く使われていなかったガラスハウスを中心とした約4,500m2の土地を再生する「犬島 くらしの植物園」をつくります。現在は日々植物に手を入れながらこの場所の在り方や発信について模索しています。

植物を媒介にコミュニティをつくる

橋詰氏は「犬島 くらしの植物園」でコミュニティをつくる仕組みをつくりたいと話します。

「入れ代わり立ち代わり色んな方が来て、一緒に土を触るでも良いし、草を取るでも良いし、ここで獲れたものをシェアしながら、関係性というものを緩やかながらどんどん作っていくと、ここの場、植物を媒介にコミュニティができるのではないか」

定期的にボランティアの方が訪れて一緒に手入れをしている

以前は海外の若い方が1、2か月滞在して手伝いに来てくれることもありましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大により現在は長期で滞在してくれる方がほとんどいないと言います。
ただ日帰りでも時折ここに来て手入れをしてくださる方もおり、「ここに身を置いて手入れすることが楽しい・気持ち良いみたいなことが一人でも二人でも起こって、入れ代わり立ち代わりやってくるというのを目指したいですね」と話します。

この場所で「これからのくらし方」を考える

ここでは集いの庭、食べられる庭、リビングルームとしてのガラスハウスなど、いくつかのエリアに分かれており、訪れた方は自由に入って花やハーブを摘むことができます。

食べられる庭で摘んだハーブで作ったハーブウォーター

また、様々なワークショップやイベントの企画・実施もしています。収穫した野菜を使ったピザを敷地内のピザ窯で焼いて食べたり、摘んだハーブを使ってハーブティーを飲んだりなど、見るだけではない植物の楽しみ方に触れることができます。

ハーブを摘む参加者

橋詰氏の説明を聞きながらハーブティーを作る様子

他にも、自然エネルギーの利用やバイオジオフィルターなどの循環システムをつくっており、「くらし」のための工夫を体感・体験することもできます。

実際に植物に触れたり匂いを嗅いだりすることで植物の力を感じ、植物を媒介に様々な人とのコミュニケーションが生まれ、そこから「くらし」を考え直すことにもつながるかもしれません。「犬島 くらしの植物園」での体験を通して「これからのくらし方」について考えてみませんか。

プロフィール



「ベネッセアートサイト直島」は、直島、豊島、犬島などを舞台に、株式会社ベネッセホールディングスと公益財団法人 福武財団が展開しているアート活動の総称です。訪れてくださる方が、各島でのアート作品との出合い、日本の原風景ともいえる瀬戸内の風景や地域の人々との触れ合いを通して、ベネッセグループの企業理念である「ベネッセ=よく生きる」とは何かについて考えてくださることを願っています。
https://benesse-artsite.jp/

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