読解力を付けるのに役立つのは、どのような分野の本でしょうか?[中学受験]

平山入試研究所の小泉浩明さんが、中学受験・志望校合格を目指す親子にアドバイスする実践的なコーナーです。保護者のかたから寄せられた疑問に小泉さんが回答します。



相談:

小4女子(性格:わんぱく・強気なタイプ)のお母さま


【質問】

進学塾に通うようになって、ずいぶん読解力が付いたように思います。けれども、普段読む本に比べて、出題される文章が難しく、これから伸び悩みそうです。物語文はよく読むのですが、説明文はほとんど読みません。最近、伝記を読むようになってきたのですが、読解力を付けるのに役立つのは、どのような分野の本でしょうか?


【回答】

中学入試に比較的役立つジャンルはノンフィクションと児童文学。

■小学生は普段どんなジャンルの本を読むか?

書籍のジャンルは多々ありますが、その中でも子どもたちがよく読むのは、推理小説、歴史・時代小説、伝記(ノンフィクション)、ファンタジー、SF・ホラー、ライトノベル、児童文学といったところでしょう。そして、その中で中学入試に比較的役立つジャンルといえば、児童文学だと思います。もちろん、「語彙(ごい)を増やす」とか「読み慣れる」といった意味では、どのジャンルも役立ちます。たとえば、SF・ホラーやライトノベルをたくさん読んでいる子とまったく本を読まない子を比べた場合、語彙数、読む速さ、理解する力などは、前者のほうが一般的に優れている場合が多いと思います。その意味では、どんな本でも読解力を高めるには有効です。しかし、読書にかけた時間だけの効果があるのかといえば、ジャンルによって差があるといえるでしょう。

■中学入試には何が出るか?

2014年度中学入試における首都圏の国立・私立中学校の国語問題分析

文種問題数割合(%)
物語文6742.7
説明的文章7447.1
韻文(解説分含む)74.5
随筆95.7
合計157100.0

※平山入試研究所調べ

そもそも、中学入試にはどのようなジャンルの文章が出題されるのでしょう。右のデータは、2014年度中学入試における首都圏の国立・私立中学校を中心とした78校、157読解問題の文種を調査したものです。多くの学校が読解問題を2つ出題し、物語文と説明的文章あるいは随筆と説明的文章という組み合わせが多いようです。

それぞれの文種を見ていくと、物語文では現代小説、児童文学からの出題がほとんどです。現代小説は大人向けのものですが、適切な一部分を抜き出すことで、中学入試問題に仕上げています。また、児童文学といっても、大人が読んでもおもしろいくらいの内容のものが多く出題されています。ここで問われることは、登場人物の心情やそのような気持ちになった理由であり、複雑な心情や人間関係を理解・表現できるかが問われます。たとえば、男女間の恋愛の物語が出題される場合もあります。さすがに「愛している」までの物語は出ませんが、「恋している」や「気になっている」といった心情を理解しなければならない文章が出てくると、児童文学の枠を超えていると感じます。なお、ファンタジーも時々出てきますが、登場人物の心情が深く書き込まれた作品が多く、子どもたちが好む物語の展開を楽しむだけのものとはかなり違った印象のものが多いようです。

文学的文章としては、随筆の出題も少なくありません。先にあげたジャンルでいえば、エッセイになりますが、小学生の日常ではまず読まないジャンルといえます。恐らく、本格的には6年生の入試問題演習で出合うことになると思いますが、すんなり読める子と何か違和感を覚えて苦手とする子がはっきり分かれるジャンルでもあります。

■読書ではあまり縁がない評論や韻文

説明的文章とは、説明文と論説文などのことであり、ジャンルとしてはノンフィクションと評論になります。まず、評論ですが、日常的な読書で読む小学生はあまりいないでしょう。また、小学生がよく読む伝記はノンフィクションに分類されますが、入試ではほとんど出題されないようです。説明的文章で問われることは、多くは「なぜ?」と「どういうことか?」の2点です。入試では筆者が説明していることや主張していることを正しく理解し、表現できるかが問われるわけですから、伝記では問いが作りにくいのだと思います。また、記録文などもあまり出題されません。ノンフィクションでいちばん子どもたちになじみが深いのは説明文でしょう。たとえば、自然環境における地球温暖化に関する話などがこれに含まれ、学校の教科書にもよく出てくると思います。

韻文は、ジャンルとしては詩歌になります。詩、俳句、和歌などが単独で出題される場合もあれば、説明する文章と共に出題されて問われることもあります。このジャンルも小学生が日常的に親しむことはあまりないでしょう。

■関係が薄い日常の読書と入試問題

このように見ていくと、いかに日常の読書と入試問題の関係が薄いかがわかります。子どもたちが普通に読みたがる本、あるいは読むと考えられる本からはあまり出題されないということです。それではどうしたらよいのでしょうか? ひとつの方法としては、読書は基礎的な語彙や文字を読む力を高めるためのものと考え、それ以上のことはあまり期待しないことです。中学入試対策としては、入試問題を解いていくことで読解力を鍛えていくのです。しかし、どうしても読書で鍛えたいというかたは、いわゆる入試に頻出の作家や作品を子どもに読ませる方法はあります。ただし、小学生にはまだ早すぎる内容も含まれている場合もありますので、原文で読ませる場合は、必ず保護者のかたが一読されてからのほうがよいと思います。また、あまり確率が高くないので、そのものずばりの出題を期待してこれらの本を読むこともおすすめしません。



プロフィール


小泉浩明

桐朋中学・高校、慶応大学卒。米国にてMBA取得後、予備校や塾を開校。現在は平山入試研究所を設立、教材開発など教務研究に専念。著作に「まとめ これだけ!国語(森上教育研究所スキル研究会)」などがある。

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