国立大学の「運営費交付金」削減で授業料が高騰!?‐渡辺敦司‐

年末に向けた政府の来年度予算編成で、公立小・中学校の先生の数を算定する「教職員定数」の在り方が一つの焦点となっていることは、以前の記事でお伝えしました。教育分野では、もう一つ焦点があります。国から国立大学に毎年渡される「運営費交付金」です。財務省が年1%の削減方針を提案したのに対して、文部科学相の諮問機関である中央教育審議会は総会で「高等教育予算の充実・確保に係る緊急提言」を、「教職員定数に係る緊急提言」と一緒にまとめています。そこでは、財務省の提案どおりにしたら授業料の大幅な引き上げにつながりかねないと反論しているのです。

財務省が、財務相の諮問機関である財政制度等審議会の財政制度分科会に提出した資料(外部のPDFにリンク)によると、国立大学法人の収入の内訳(付属病院収入を除く)は現在、「運営費交付金」が51.9%と半数を超え、補助金等収入(15.6%)を合わせれば67.5%と、3分の2が国からの支出に依存しています。独自財源である授業料等収入は14.7%と、7分の1程度にすぎません。「国立なんだから、当たり前だろう」と思うかもしれませんが、国立大学は2004(平成16)年に各大学が「国立大学法人」となったことを契機に、これまでの国直轄の予算という形を改め、基盤的経費として運営費交付金を交付する一方、「経営努力」で経費を削減したり、自己資金を調達したりすることも可能となっています。

以前の記事で、国立大学86校のうち55校が「地域貢献」大学に分類されたことなどをお伝えしました。これは、2016(平成28)年度から始まる6年間の「第3期中期目標期間(外部のPDFにリンク)」の中で、3タイプ別に運営費交付金の配分の仕方を変えることで、間接的に学部再編などを促していこうというものです。
私立大学の場合、収入のうち学生納付金の割合が76.9%と4分の3を占めており、国からの補助金(私学助成など)は10.9%にすぎません。国立大学も法人化されたのだから、4分の3とまでは言わないまでも、せめて運営費交付金と自己収入を同じ割合(約42%)にしよう。そのためには運営費交付金を毎年1%ずつ減額すると同時に、自己収入を毎年1.6%増加させよう……というのが財務省の提案で、それには「授業料の引上げなど交付金以外の自己収入を確保する努力」が必要だというのです。

今でも国立大学法人は、その授業料を、国が定める標準額(現在は53万5,800円)に上限120%の範囲で増額したり、減額(下限なし)したりできるのですが、実際に学部段階で標準額を増減している大学はありません。もし財務省どおりになったら、自己資金を得にくい大学を中心に、増額せざるを得ない大学が続出することでしょう。

授業料の公私間格差も縮めるべきだというのも、財務省のかねてからの主張です。しかし文科省によると、大学生の家庭の年収は近年、500・900万円の中間所得層が減少する一方、500万円未満の層が4人に1人にまで増加しています。教育費負担の在り方も含めて、運営費交付金の問題を考える必要があるでしょう。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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