世界中から巡礼に訪れる心臓音コレクションも!現代アートを体験する豊島小学校のふるさと学習(後編)【直島アート便り】
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ベネッセアートサイト直島の舞台のひとつである豊島(てしま)では、地元の魅力を見つけるふるさと学習の一環で、小学校3年生・4年生の児童たちが9月に島内の美術館を訪れました。日常生活の近くにアートがある子どもたちは、どのように作品と対話し、どんな力を身に付けるのでしょうか。2日目のレポートです。
「心臓音のアーカイブ」ハートルームを鑑賞する児童
世界中の人が巡礼に訪れる「心臓音のアーカイブ」
豊島小学校のふるさと学習では、地元の魅力を発見するための訪問場所も児童たちが決めています。今年は2日間かけて、4つの美術館をまわりました。スタッフと一緒に作品を鑑賞しながら、疑問に思ったことをインタビューし、1か月かけて地元の魅力を発表する準備をしていきます。
豊島の唐櫃(からと)エリアにある「心臓音のアーカイブ」では、世界中で登録された心臓の音を聴くことができ、その数は現在約7万です(2020年11月時点)。2010年7月に開館した際、最初に豊島の方々に心臓音の登録をしていただきました。子どもたちは自分の家族や知っている人の名前で検索し、色々な心臓音を聴き比べます。
「おばあちゃんの登録番号が2番目でびっくりした」という児童や、自分がまだお腹にいる時にお母さんが録音した心臓音を聴いて「ドクッドクッドクっていう音。少し遅いかなぁ」などと感想を言ってくれる児童もいました。
「心臓音のアーカイブ」のリスニングルームで心臓音を検索する児童
心臓音を登録する児童
今回のワークでは児童全員が心臓音を録音し、事前ワークで書いた未来の自分へのメッセージや将来の夢と一緒に登録しました。
心臓音は一人ひとり異なり、そのとき生きていた証としてアーカイブされています。大切な人が刻んだ音を聴きに、国境や海を越えて人々が訪れる「心臓音のアーカイブ」は、世界中の人々の心臓音とともに、豊島のアートプロジェクトを見守ってくださっている島民の皆さんの記憶や、子どもたちが今を生きている証を刻んでいく場となっています。
五感を研ぎ澄ませる「豊島美術館」
最後に訪れたのは「豊島美術館」です。「心臓音のアーカイブ」と同じ2010年に開館した美術館で、豊島の特徴でもある湧き水、棚田の景観など、アートを通じて豊かな自然を体感する空間を作家・内藤礼と建築家・西沢立衛がつくりだしています。
「豊島美術館」 写真:鈴木研一
「豊島美術館」のアプローチから棚田を眺める児童
児童は美術館の入口までのアプローチを歩きながら、棚田や瀬戸内海の景観と美術館の関係に目を向けたり、耳を澄まして波や虫の音を聞いたり、スタッフの問いかけに応じて五感を意識していきます。
作品スペース内では、思い思いに歩き回りながら目に映るものをよく観察し、聞こえてくる音、空間内を通り抜ける風など、気づいたものをワークシートに書き込みながら、静かに自分の感覚に集中していました。
「豊島美術館」 内藤礼 「母型」2010年 写真:鈴木研一
「豊島美術館」 内藤礼 「母型」2010年 写真:森川昇
鑑賞後にワークシートを互いに見合い、見つけたものを共有します。文字で感想を書き留める人、水の形を描く人、小さな玉やお皿の位置も書き込んでいる人など、見つけるものも表現方法もそれぞれです。
「どうして大きい穴があるの?」「なぜ糸があるの?」「入口の天井が低いのはどうして?」など児童からの質問について、スタッフが「穴から何が見えた?」「糸はどんな風に動いていたかな?」「入口から入る時どんな気持がした?」などの視点を示唆すると、自分なりに理由を考え、現代アートを鑑賞する姿勢をおのずと身に付けているようでした。
現代アートの解釈には正解がありません。アーティストや建築家の視点を借りて自分の関心ごとに気づき、その理由や解釈を自分なりに考えることが鑑賞体験であり、アート鑑賞を通じて身に付けることができる力のひとつです。
豊島美術館カフェにてワークシートを共有する児童。ワークシートはご希望のお客様にはチケットセンターで配付しています(2020年11月現在)
現代アートが地元の子どもたちの学びに貢献できること
地域の自然や環境、文化に合わせてつくられたベネッセアートサイト直島の現代アートは、外から訪れた人だけでなく、地域の人に対しても新しい視点を提示しています。当たり前に思っていた習慣や風景が、アーティストの表現により魅力ある地域の固有性に変化していきます。
児童たちは2日間のふるさと学習を通じて、作品を鑑賞する観察眼や想像力を鍛え、五感を使って地元の自然の豊かさに気づくことができました。更に日常的に繰り返しアートに触れることで、生活の中におもしろさを発見し、四季折々に変化する自然の景観に目を向け、色々な節目に想いを巡らせる機会が増えていきます。そうして養われた積極性や自分なりの解釈を考える力は、アイデンティティを豊かに形成し、美術館の中だけでなく現代を生き抜く上で様々なもの・ことに直面した時にも適応力や対峙力として発揮されることでしょう。
「心臓音のアーカイブ」でスタッフにインタビューする児童
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