美術館デビューのススメ【第2回】計画編 (2)

「子どもの頃から本物のアートに触れさせるとよい」といわれています。しかし、実際に美術館に連れていくとなると、自分自身が行き慣れていないし、子どもが興味を持つかどうかも不安、というかたも多いのではないでしょうか。
東京都美術館学芸員の稲庭彩和子さんに、具体的な子どもの美術館デビュー計画についてうかがいました。



どんなところに連れて行く? --ゆっくり見られる常設展がおすすめ

鑑賞プログラム「海をめぐるものがたり」
(東京都美術館にて)

所蔵品などを展示している常設展は、企画展ほど混雑していないのでゆっくり見られますし、多くの美術館が小学生までは無料、大人の入場料も安価なので、美術館デビュー(ミュージアム・デビュー)におすすめです。また、夏休みの時期などは、子どもも楽しめる企画展や参加型のワークショップを開催している美術館も多いので、そうした機会をとらえることができます。
就学前の子どもは暗いところを怖がることもあるので、展示室が明るいことの多い現代アート中心の美術館がよいかもしれません。サイズが大きい現代の作品は一緒に見やすいですし、抽象画などに興味をもつ子どもは意外に多く、苦手意識をもつのはむしろ大人のほうが多いようです。大人は子どもの見方を楽しむつもりで出かけるとよいかもしれませんね。

また、子どもはカラフルでわかりやすいものが好きだと思われがちですが、小学校低学年で渋い工芸品などに興味を持つ子どももいます。大名のお姫様の嫁入り道具だった漆塗りのお重や、豪華な化粧道具セットなどに夢中になる女の子は多いですね。また、迫力ある屏風(びょうぶ)絵や大きな仏像、武具などは男の子に人気があります。



アート鑑賞を組み込んだ、魅力的なおでかけプランを

廃材を使ったワークショップ「Hi! Zai! アートラボ」(東京都美術館にて)

美術館デビューに大切なのは、子どもを「連れていく」のではなく、本人が「行きたい」という設定をつくること。親の好みで「連れて行く」のではなく、子どもとのデートをプランニングするような気持ちで計画できるといいですね。

たとえば、アニメや漫画にでてくるキャラクターのデザインは、仏像や武具、古典的な架空の動物などを参照しているものがたくさんあります。我が家の場合は5歳ごろだったと思いますが、アニメで見たキャラクターが「風神・雷神」(俵屋宗達作『風神雷神図』)を思い出させるものだったので、その本物を見に行こうといったら興味を持ちました。美術館のチラシや絵はがきを並べて、どれを見に行くか子どもと一緒に決めるのもよいですね。

美術館で作品を見ると同じぐらいの比重で、「ランチは近くの公園でお弁当ね」「絵を見たあとはここでアイスクリームを食べよう」など、その日1日が楽しい体験となるように工夫してください。



事前情報は必要?

作者や作品に関する情報は事前に教える必要はありませんが、作品のイメージ、たとえば印象派のモネの絵だったら、モネの絵をウェブや印刷物でいくつか見ておくのはとてもよいと思います。人は自分が見たことがあるものには興味を示す傾向があるので、美術館で自分の知っている絵が丁寧に飾られているのを見ると、興味を持って見るものです。今は絵本や絵はがきなども充実しているので、そうしたものを活用するのもよいと思います。


プロフィール


稲庭彩和子

東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション担当係長。上野公園の9つの文化施設を連携し、子どもたちのミュージアム・デビューを応援する「Museum Startあいうえの」等の企画運営に携わる。親子で楽しめる展覧会「キュッパのびじゅつかん」展を企画。

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