モネが描いた時と同じ自然光で作品を鑑賞できる!安藤忠雄氏による地中に埋まった珍しい美術館【直島アート便り】

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2019年度に約19万人が訪れた地中美術館は、企画展のない、少し珍しい美術館です。作品は変わりませんが、何度も訪れる人がいるのは何故なのでしょうか。地中美術館ではどのような体験ができるのか、その特徴をご紹介します。

地中美術館 モネ室

この記事のポイント

地中美術館はどこにある?

地中美術館は、瀬戸内海に浮かぶ離島、直島の南側にあります。ここは、日本で初めて国立公園に指定された自然景観の豊かな場所です。1980年代に、当時の直島町長と福武書店(後のベネッセホールディングス)の創業社長の出会いから始まりました。1988年に直島文化村構想を発表し、ベネッセアートサイト直島の活動に発展しました。自然と共生する現代アートを設置することで、ここでしか体験できない場所を生み出しています。そのような場所の固有性を引き出す作品を「サイトスペシフィック・ワーク」と呼んでおり、地中美術館は2004年に当時のサイトスペシフィック・ワークの集大成として完成しました。

空から見た地中美術館 写真:大沢誠一

地中美術館の名前の由来

地中美術館はその名の通り、「地中」にあります。設計を担当した建築家・安藤忠雄は、建物の外観が瀬戸内海の美しい景観を損ねないよう、地下に埋設するように美術館を設計しました。この場所にはかつて流下式塩田があったため、丘のようになっている地形を切り崩して建物を建設し、完成後に土で埋め戻すという工程で建設されています。館内にある「地中カフェ」からは、今でも塩田だった地形の名残を確認することができます。

どんな作品があるの?

地中美術館では作品の展示替えはありません。この場所に合わせて作家や建築家が空間と一体となった作品を制作しているため、開館当時より同じ作品が継続して展示されています(一部絵画作品を除く)。選ばれた作家は、クロード・モネ、ジェームズ・タレル、ウォルター・デ・マリアの3名です。この3名の作家の作品空間には、「光」を体験するという共通点があります。

クロード・モネ室 写真:畠山直哉

クロード・モネ室では、光の画家とも呼ばれたモネの睡蓮の連作を、制作時と同じ自然光の下で鑑賞することができます。チケットセンターから美術館までのアプローチにある「地中の庭」の体験と合わせることで、モネが描こうとした自然の美しさについて考えることができます。絵の中に描かれているかもしれない水の中の生き物や、絵の外側に広がる風景をお子様と一緒に想像してみてもいいかもしれません。

地中の庭

ジェームズ・タレル「アフラム、ペール・ブルー」1968 写真:藤塚光政

ジェームズ・タレル「オープン・スカイ」2004 写真:畠山直哉

ジェームズ・タレル「オープン・スカイ」2004 ナイトプログラム 写真:藤塚光政
金曜日と土曜日は日没の時間に合わせナイトプログラムを開催しており、日中とは異なる体験をすることができます。(2020年11月現在。完全予約制。)

ジェームズ・タレルは、人間が「光」そのものをどのように認知し、知覚するのかを作品体験を通じて提示している作家です。地中美術館ではタレルの3つの作品を展示しており、様々なアプローチで光を見、触れ、感じるきっかけを与えます。

ウォルター・デ・マリア「タイム/タイムレス/ノー・タイム」2004 写真:Michael Kellough

ウォルター・デ・マリア「タイム/タイムレス/ノー・タイム」2004 写真:Michael Kellough

ウォルター・デ・マリアの作品空間では、太陽の動きや天候によって光の表情が様々に変わります。一瞬たりとも同じ体験はなく、自然の瞬間性や変化していく周囲の環境について気づくことができます。

地中美術館 写真:松岡満男

建築も美術館の体験として重要な役割を担っています。人工照明を最小限にとどめ、地下の暗さや、その中に差し込む自然光の表情を、様々な仕掛けにより体験できます。安藤忠雄が設計した美術館内にある2つの中庭は吹き抜けになっており、植物や自然石も素材として用いることで、地下にいながら自然を感じられる空間になっています。

訪れる度に体験が変化する美術館

地中美術館は、「自然と人間の関係を考える場所」というコンセプトで構想されました。作品空間だけでなく建物全体での体験を通じて、時間と共に刻々と移ろいゆく光を感じたり、天候や季節による変化を想像したりすることができます。人によって視点も感じ方も異なるため、ご家族など一緒に訪れた人と気づいたことを分かち合うことで新しい発見もあります。日頃あまり意識していないかもしれない周囲の自然に目を向け、私たち人間は自然とどう関わっていくべきなのか、考えるきっかけになるのではないでしょうか。

プロフィール



「ベネッセアートサイト直島」は、直島、豊島、犬島などを舞台に、株式会社ベネッセホールディングスと公益財団法人 福武財団が展開しているアート活動の総称です。訪れてくださる方が、各島でのアート作品との出合い、日本の原風景ともいえる瀬戸内の風景や地域の人々との触れ合いを通して、ベネッセグループの企業理念である「ベネッセ=よく生きる」とは何かについて考えてくださることを願っています。
https://benesse-artsite.jp/

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