モネの世界観を再現!「地中の庭」から学ぶアートの楽しみ方【直島アート便り】
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直島にある地中美術館は、周囲の自然や瀬戸内の美しい景観に溶け込むように、地中に建てられています。作品はすべて恒久展示ですが、見え方は常に同じではありません。中と外の境界が曖昧な建築のつくりや、自然光を取り入れた空間など、季節や天候によって作品は様々な表情を見せてくれます。なかでも屋外にある「地中の庭」は、自然の影響を受けながら、日々新しい姿で来館者を迎えています。今回は「地中の庭」に注目し、時の経過とともに移り変わる自然や季節に目を向けることで見えてくる、アートの楽しみ方をご紹介します。
直島にあるクロード・モネの庭—地中の庭ってどんなところ?
地中美術館は「自然と人間の関係を考える場所」というコンセプトのもと、2004年に開館しました。チケットセンターと館内をつなぐアプローチには「地中の庭」という庭園があり、地中美術館の作品のひとつとして、訪れた人を出迎えます。
地中美術館 クロード・モネ室 写真:畠山直哉
地中の庭は、クロード・モネがフランスのジヴェルニーで手掛けた庭から着想を得てつくられました。庭の草花や樹木は、ジヴェルニーの庭で用いられている植物を取り入れて構成されています。絵画のモチーフとして、モネが晩年に好んで描いた睡蓮や柳、アイリスも植栽され、その世界観が表現されています。池の水面は水鏡の役割も果たしており、周りの樹木や自然光が池に映り込む様子は、晩年のモネが描こうとした光や「自然」の姿を表現しているようにも見えます。地中美術館にはモネの「睡蓮」の連作のうち、最晩年に描いた作品が5点展示されています。
ジヴェルニーの庭にあるものだけでなく、直島の環境に合う植物も採用されている点は、地中の庭のもう1つの特徴として挙げられます。ツツジや松、ヤマモモなど、もともとこの場所で自生していた植物を生かし、庭の奥に続く山も含めてゆるやかに周囲の自然に溶け込みながら、ここでしか見ることのできない景色を生み出しています。
季節・天候・時間-庭が見せる豊かな表情
地中の庭では1年を通して楽しんでいただけるよう、年に5回ほど草花の植え替えをはじめとする庭の演出作業を行っています。館内にあるモネの作品に繋がるような色使いを意識し、季節に応じて草花を選定します。春になると、コバノミツバツツジや桜が開花し庭全体がピンクに色づき、初夏には睡蓮が開花し始め池全体が華やぐなど、季節によって庭の印象も様々に変化します。
周囲の自然とともにある地中の庭では、季節だけでなく天候によっても見え方が変わります。晴れている日は自然光が池に差し込み水面を輝かせます。また、雨の日は瑞々しい植物や池に波紋が広がる様子が見られたり、寒暖の差が激しい早朝には水面や庭全体が白い霧に覆われたりするなど、幻想的な景色と出会うことができます。
時間帯による変化に注目しながら見るのも楽しみ方の1つです。朝見た景色と、夕方に見る西日に照らされた庭の印象は大きく異なります。館内の作品を鑑賞する前後に時間を変えて地中の庭を体験いただくことで、モネが絵画の中で捉えようとしていた光の瞬間性や自然そのものを、より現実のものとして感じていただけるのではないでしょうか。
一度きりの瞬間を! 移り変わる景色から見つけるアートの楽しみ方
地中美術館の作品はすべて恒久展示ですが、自然の要素を取り入れることで季節や天候、時間帯によって建築・作品の見え方に思いがけない変化が起こります。今回はその一例として地中の庭を取り上げました。例えば、地中の庭では隣り合う草花が成長し、様々な色のグラデーションが見られるなど、私たちが予想しないような景色が日々生まれています。作品そのものだけでなく、空間や周囲の自然にも目を向けることで、一瞬一瞬更新される、その時だけの美しさに出会えるかもしれません。自然とともにある美術館では、同じ景色は二度と見ることはできません。自然や四季の移ろいに触れながら、訪れた日ならではのアートを楽しんでみてはいかがでしょうか。
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