22世紀まで生きる今の子どもに不可欠なのは「主体性」【後編】力を付けるヒントは家庭にもある‐渡辺敦司‐
今後の不確実な21世紀を働き盛りとして担う今の子どもたちに不可欠な「主体性」を、家庭でどう意識的に育てるか。前回に引き続き、ベネッセ教育総合研究所(以下、ベネッセ教育総研)の小泉和義・情報編集室長が、子どもに自ら学ぶ力を身に付けさせることを目指した「クラスベネッセ」のオープニングイベントで行った講演から、手がかりを探ってみましょう。
ベネッセ教育総研の調査では子育てや教育の悩みのトップに「整理整頓・片づけ」が上がっており、主体性に不可欠な「自立」の力がますます身に付きづらくなっていることがうかがえます。一方、小泉室長によると「自信」が「積極性」を生み、それが「成果」につながることでさらなる自信を生む……という「成功のトライアングル」があるといいます。
そうした成功のトライアングルにプラスのスパイラル(らせん)をもたらすため、小泉室長は(1)「仮決め」する(2)考える習慣をつける(3)ほめる、はげます(4)「学び方」を身に付ける(5)「遊び」の奨励……という「子どもが伸びる五つのヒント」を示しました。
「仮決め」とは、自分が何をしたいか、自己決定する機会をつくることです。ベネッセ教育総研の調査でも、子どもが自分で決める機会を設けるようにしている家庭ほど子どもが「勉強に自信がある」と答える割合が高くなっています。「仮」というのは、必ずしも最善の決定である必要はないからです。自分で決めるという経験をすることが、何より大切です。だから決める方法も、必ずしも何らかの理由や理屈によるだけでなく、好き嫌いや「運」などでも構わないといいます。しかし、「決めたら、続ける」ことが重要です。「目標(マイテーマ)」を持ち、「自分事」として考え、行動することを習慣化することで、日々の出来事がすべて子どもの「進化(変化や成長)」の材料になるのです。
そのために有効な保護者の働き掛けは、何気ない日常会話の中で子どもが「なぜ?」をたくさん見つけられるように促すことだと小泉室長は強調します。なぜ毎日学校へ行くのか、なぜ部活が楽しいのか、なぜ高校に合格したいのか、といったように、ふだんやりすごしてしまうような事柄にも「どうしてかな?」「どうすればよいかな?」と問い掛けることで、常に「原因」と「解決策」を探す習慣を付けさせることが、未来に向けた思考力につながるのです。それには「メシ」「フロ」といった単語ではなく、常にきちんとした文章での会話を心掛けることも大切です。学校の授業で重視されている「言語活動」はまず家庭からというわけです。
「学び方」を身に付けさせる指導は、家庭では難しいと思いがちです。しかし、「片づけ作戦」がその第一歩になると小泉室長は説明します。机の上から勉強と関係ないものを整理整頓することが、勉強に集中するための条件づくりになるからです。さらに、繰り返し書いて覚える「くりかえし作戦」、解き方がわからなくても答えが合っていればよいという考えを改めさせる「プロセス重視作戦」、友達と教え合ったり問題を出し合ったりすることを促す「学び合い作戦」が有効だといいます。
「遊び」の奨励は、何かに熱中して集中する体験を積ませることが眼目です。「勉強してほしい」という気持ちを少し我慢しても、「どこにでも必ず学びはある」と小泉室長は指摘します。好きで熱中することがある子ほど成績も高くなることがベネッセ教育総研の調査からもわかっています。元プロテニスプレーヤーの杉山愛さんが2014(平成26)年11月に東京・青山で行われたベネッセ「まなびmeeting」の第1回教育シンポジウムで「楽しいことをするのではなく、することを楽しんでほしい」と語っていたように、子どもが主体的に「やりたい」という思うきっかけを作り、背中を押してあげることが、何より保護者をはじめとした大人の役割だというのです。
子どもの未来を視野に入れた支援のために、何ができるか。学校・家庭・社会が一緒になって考えていきたいものです。