学ぶことの目的と意味を大切にする社会の授業[こんな先生に教えてほしい]

毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。
小学生から高校生、そして、先生や保護者のかたに役立つ教育番組を制作するためです。その中で、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。



今回紹介するのは、宮城県のAR先生が、小学3年生に行う社会科の授業です。目指すのは、子どもたちが「知る楽しさ」を体感していくこと。そのために、一人ひとりが明確な目的意識を持って、実り多く消防署を社会科見学する授業を計画しました。

授業は、消防署の仕事を取り上げたテレビ番組の視聴することから始まります。出動要請が来て、約1分間で出動する様子やその他の訓練の様子が取材してありました。
新しい単元の冒頭にテレビ番組を使うのは、有効な手法です。なぜなら、「知っていそうで、知らない」という驚きを実感させ、興味・関心を高めるのに、手軽な方法だからです。

そして、この後、先生は「見て思ったことは?」と問いかけます。

「消防服は20キロある」
「通信が入ってからの準備が早い」
「階段を走って降りていた」
「ズボンの上から防火服を着ていた」

などの声が挙がりました。

私が、AR先生を「いい先生だな」と思ったことのひとつが、テレビ番組を活用した後の問いかけ方です。「見て思ったことは?」。とても当たり前で素直な問いかけだと思いませんか。けっこう、「発見したことは何?」などひねった質問にしてしまう先生が多いのです。クラス全員が授業にすっと参加しやすい問を選択できるのは、いい先生の条件です。

さて、授業の方は、子どもたちがテレビ番組を見て一番印象に残った「速さ」にこだわることにしました。
その時、次のようなやりとりが行われたのですが、AR先生のすごさが垣間見られました。どこだと思いますか?

先生 「出動までは、1分だったけど、消防車が出て現場に着くには、何分かかると思う?」
子ども「10分ぐらい」
子ども「遠いところだと30分か1時間かかりそう」 
先生 「そうだね。遠かったら時間かかるようね」
子ども「でも時間がかかったら、燃えちゃうんじゃないかな」
先生 「そうだね。時間がかかったら燃えちゃうね」
子ども「遠いところは、近くにある別の消防署に連絡がいくんじゃない?」
先生 「なるほど。近くにある別の消防署に連絡がいくのか」
子ども「じゃあ、連絡する人が、どの消防署を選ぶの?」
先生 「なるほど。連絡する人が選ぶのか」
子ども「選ぶんじゃない」
先生 「選ぶんだ」
子ども「近い消防署に指令が送られる?」
先生 「あーなるほど。指令が送られてくる」

先生は、子どもたちの発言を肯定し、おうむ返しにしているだけですが、子どもたちからは、さまざまな発言が出てきます。これは、子どもたちに、この先生の授業とこのクラスでは、どんな発言をしてもいいという暗黙の了解ができているからです。つまり、学級経営がうまくいっている証しということです。

この後は、先生は、出動してから火災現場までは約3分間かかることを伝え、黒板に……



と書き、「約4分間で火災現場に着く」ことをクラス全員で確かめます。

このような授業のポイントやテーマをわかりやすく示すことが出来ることも、いい先生の条件だと思います。ちなみに、授業が終わった後、その黒板を見ると何が行われていたのかがわかるかどうかで、先生の授業力を判断するというやり方もあります。

この後、AR先生は「こんなに早く着ける理由を考えてみましょう。まずは先ほどの番組から気づいたことは?」と言います。「教科書や資料集で調べよう」ではなく、あえてスモールステップとして一段加えたのです。これは、初めから教科書などで探すと、調べる能力の差が出てしまうからです。番組だと、ちょっと前にクラス全員で見ているので、誰もが簡単に参加できます。さらに、速さ工夫のイメージをぼんやりと持つ下地づくりにもなるのです。

 ●必要な物のみ置いてある
 ●整理整頓と書かれてあった
 ●車が出やすいようにシャッターがあいている
 ●車を前向きに置いている
 ●運転手さんが、地図を前から確かめていた

などの声が出ました。

そして、いよいよ番組に出ていない疑問を教科書や資料集で調べ、質問づくりを始めます。ここでの先生のねらいは、自分だけのこだわりで質問を作ることです。自分で見つけた速さの工夫で、消防士に聞かないとわからないことを見つけるのです。こだわりを持った時こそ、子どもたちのやる気は高まります。さらに、先生自身が消防署の役になって、子どもたちの質問を練り上げていきます。最初は、途切れ途切れの質問だったのが、核心をつかむ質問に変わっていきました。
 
ちなみに、子どもたちに質問で大事なことは何だと思う? と尋ねました。
すると、子どもたちから返ってきたのは、「学校で何を勉強してきて、何がわかっているのかを伝えたうえで、何が知りたいかを伝えること」と言われました。

「教える先生次第で、小学校3年生もここまで言えるようになるのか……」と思ったのが印象的でした。

プロフィール


桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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