2020年度から「デジタル教科書」に!? 課題は山積

文部科学省は、これまで紙ベースで提供されてきた教科書に、音声や動画などを加えた「デジタル教科書」を公式に導入できないか検討する、有識者会議を立ち上げました。今後1年半かけて結論を出すといいますから、最速なら新しい学習指導要領(小学校は2020<平成32>年度からの見通し)の教科書は、デジタルになるかもしれません。ただ実現には依然、課題が山積していることも事実です。

電子黒板の普及に伴って、先生が教科書の内容を拡大して提示する「指導者用デジタル教科書」の使用も広がっています。また、タブレット端末など情報機器の整備が進んでいる一部の学校では、児童生徒用の「学習者用デジタル教科書」を導入しているところもあります。ただ、これらの「デジタル教科書」は教科書会社が紙の教科書と別に「副教材」として販売しているもので、「デジタル教科書・教材」(外部のPDFにリンク)という呼ばれ方もされています。

教科書がデジタル化されれば、障害のある子どもも含めてわかりやすくなるだけでなく、英語の発音を音声で聞いたり、図形などを自分で操作したりすることもできますから、より理解が深まり、学力の向上が期待できます。タブレット端末1台に全教科書が収まれば軽くなるだけでなく、校外学習にも持ち運びが便利です。デジタル教科書に書きこんだ意見もお互いに共有できますから、全体やグループでの話し合いも活発になり、「アクティブ・ラーニング(課題発見・解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習、AL)(外部のPDFにリンク)」がしやすくなる効果もあります。

現在の教科書制度は当然、紙を前提にして成り立っています。小・中学校など義務教育の教科書は私立も含めて国が購入し、無償で配布されています。もし紙の教科書を正式にデジタルに切り替えるとしたら、まずは端末を整備しなければなりません。2014(平成26)年度から全県立高校で学習者用デジタル教科書を導入した佐賀県では、端末代に5万円の負担を求めています。最近はタブレット端末をすべての子どもに貸与し、家庭への持ち帰りも認めている自治体も出始めてきましたが、まだごく少数です。

制度上の問題も、大きな課題です。教科書は国による検定に合格して初めて、「主たる教材」(教科書発行法)として学校での使用が義務付けられるものです。そのため、そもそもデジタル教科書を紙の教科書を代替するものとして位置付けるのか、音声や動画まで検定の対象にするのか、著作権の扱いは紙の時と同じでよいのかなどが、まず課題として浮上します。また、必然的に端末に向き合う時間が増えますから、健康面への影響や、有害情報へのアクセスも心配になります。ネットワーク環境が整っていない家庭への配慮も必要です。

しかし、今や仕事や日常生活でも、デジタルは不可欠になっています。小さい時からデジタル環境に慣れるとともに、紙で示された内容を覚えるだけでなく、自分で情報を集めて考える学習も、今後はますます重要になってきます。デジタル教科書も、もう是非を論じている時代ではないのかもしれません。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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