新入試に不可欠な「言葉にする力」を普段から育む 高校の新たな進路指導【青森県立青森高校 笠井敦司先生】

昭和・平成時代に受けた「自分のときは…」は通用しない?!
現在~これからの教育は、保護者の方々の多くが受けてきたかつての教育と異なる点が多数あります。その違いや、ご家庭での教育にもつながるヒントを、先進的な実践を行う学校・識者の先生方にお話しいただきます。
今回は、県内の最難関校で学校運営や進路指導に携わる笠井敦司先生です。

この記事のポイント

大学入試は「何をどのように学んだか」が問われる傾向が強まる

現在の大学入試は、筆記試験で正答する力だけでなく、より多様な能力を問う内容へと変化しています。

例えば、最近増えている「総合型選抜(旧:AO入試)」では、多くの大学がディスカッションやプレゼンテーションを課しています。合格するためには、これまでのような国語や数学といった教科の学力で測られる入試の点数だけでなく、議論や発表のスキルを身につける必要があります。そして、発表できる中身があること、つまり、前提となる自分なりの考えをしっかりと持つことや、それを裏付けるような高校生活の様々な経験や努力も必要です。この傾向は今後も加速していくことが確実です。

そうした流れを受けて、高校の教育も変わりつつあります。
高校の3年間でどのような経験をして、どのように学んだのかというプロセスを重視するようになりました。総合型選抜の例でお話ししたようなこれからの大学入試に対応する力は、短期間の詰め込み型学習では身につきません。1、2年生のうちから少しずつ蓄積していくしかなく、本校でもそのためのカリキュラムを意図的・計画的に組むようにしています。実質的には大学入試対策の前倒し傾向が高まっているとも言えます。

ただし、従来型の受験勉強を早くから始めないと間に合わない、という意味ではありません。
なぜ、大学が入試のやり方を変えてきているのか。それは、大学が求める人材が変わってきており、その理由は大学の先にある社会が求める人材が変わってきているからです。

世界がより複雑な構造になり、これまで以上に正解がわからない、あっても一つではない社会を生き抜く人材を、従来の出題方法ではもはや判別できなくなりました。
今の大学入試は、「高校生活、あるいはそれ以前の経験の中で、社会が求める力を少しずつ身につけていきましょう、それを大学入試で見ますよ。」という意味なのです。

自分の思いを言葉にすると、アクションにつながる

では、これからの社会で必要な力とは何でしょうか——いろいろありますが、あえて一つ挙げるとすれば、私は「言葉にする力」だと思います。

これまでの「当たり前」が「当たり前」ではなくなる社会になっていき、模範とする生き方も定かではない中で、子ども自身が「これはどうなんだろう」と立ち止まり、その疑問や自分なりの考えを文字や言葉にして、他者に見える形で言葉にすることです。

自分の思いや考えを言葉にしないままだと、何か不都合なことが起きてもごまかしが効きますが、言葉にすることで、自分で言ったことは責任を取ろうと、具体的なアクションを起こすようになります。
また、自分の考えの中身を客観的に見つめられますし、周囲の理解や協力も、言葉にすることで初めて得ることができます。

「言葉にする力」はこのように育む

では、どのように「言葉にする力」を育めばよいのでしょうか。進路指導との関係と合わせて、本校の実践例をご紹介します。

これは、3年生の国語(現代文)で、評論文を読み解く単元を学習した後に生徒が記入した振り返りシートです。

この単元でどのような力を身につけてほしいかを示した上で、学習後の到達状況を生徒自身にマッピングさせています。これによって、目指す到達点がどの状態で、それに対して自分はどこまで出来て、もっと努力が必要なのはどこなのか、理想と現実のギャップを見える化することができます。

ただし、ギャップがわかっていても、具体的に必要なアクションがわからないことは多いものです。アクションにつなげる橋渡し役となるのが、生徒自身が書くコメントと、それに対する教師(今回の例は、授業を担当した私)からのコメントです。

この生徒は、現代文の学習でこれまで努力してきたことの成果がまだ十分でないと自己分析し、目標達成に向けて「私は読解力や語彙力をもっと高めるようにがんばります」と言葉にして宣言しているわけです。それに対して教師が、「過去の模試をじっくりと読み込んでみよう」とアクションにつながる具体的なヒントをコメントしています。

どんなSNSでも満たされない

ほとんどの生徒は、この振り返りを真剣に行っています。その書きぶりは、「主体的に学習に向かう力」などの評価に反映させるのですが、良い評価をもらうためだけに一生懸命書いているわけではないようです。

現在はSNSなどで他者と情報を簡単にやりとりできる時代ですが、深いところにある自分を認めてほしい気持ちは満たされていないことを、生徒自身もわかっています。
このシートは、ハッシュタグでつながった内輪での表面的なやり取りではなく、自分の思いやがんばりを素直に表現して、客観的な評価とさらに成長するための助言を得るための貴重な機会となっているようです。

この取り組みは全校で行っておりコメントを書く教師の負担もあるのですが、「言葉にする力」を少しでも伸ばしてほしいと願いながら続けています。

大学選びは偏差値に頼らず、オンリーワンの基準で

評価の話をしましたが、高校では評価と進路選択は切っても切れない関係です。多くの学校で導入が進んでいますが、本校でも、教科学習の振り返りシートはもちろんのこと、教科外の活動も含めて、生徒個々の様々な学習プロセスと成果、評価をなるべくたくさん記録・蓄積しています(ポートフォリオ化)。
それらを参考にしながら、生徒とともに進路を考えていきます。

生徒には、「偏差値が高いから」「直近の模試の結果を見て受かりそうだから」という理由だけで大学を選ぶのではなく、3年間の学びを積み重ねた結果、本当に自分が進みたい道は何なのかをよく考えて選ぶようにアドバイスしています。
高校におけるこれからの進路指導とは、「大学選びの指導」ではなく、「今後の進路を生徒自身が決めるための支援」の色がますます濃くなるでしょう。

偏差値やブランド、ご自身の出身であるなど、学校を選ぶ際に保護者のかたが口を出したくなる気持ちはわかります。ですが、まずは我が子がそれまでに歩んできた学びの道筋と、そこから考えた本人の希望を認めてあげることから始めていただきたいと思います。

子どもに対する「心の余白」を持ってほしい

例えば、3年生になったら、学級活動や一部の行事などの教育活動は行わずに勉強させてほしいと願う保護者がいたとします。
ですが学校としては、そうした教育活動も子どもの成長にとって意味のあることと考えて、意図的・計画的に行っています。
確かに、大学入試突破を目的とすれば、一見、時間がもったいないと感じるかもしれません。しかし、教育の目的は、子どもが伸びることです。若いうちの貴重な時間を机上の勉強だけに割かずに、豊かな経験、友人関係を楽しんでほしい。それらは必ず将来の糧になりますし、受験勉強とは全く関係のない場面で本人の学習意欲に火がともることもあります。

親の目線では価値を感じないことでも、それをそのまま子どもに押し付けず、いったん引いて見守るような心の余白を、保護者の方にぜひ持っていただきたいと思います。それによって、子どもが自ら考えて「言葉にする力」が伸びるきっかけが生まれ、これからの社会で通用する力となっていくのです。

(執筆/神田有希子)

プロフィール

笠井敦司 先生

笠井敦司 先生

青森県立青森高校 教務主任。国語が専門で、同校では進路指導をリードし、学校の教育デザイン策定に携わってきた。
青森県立青森高校
県内で最も古い歴史を持つ高校の一つで。東京大や京都大などの国公立大学に毎年半数以上が合格する進学校。2021年度、キャリア教育で優れた実践を行う学校等に贈られる文部科学大臣表彰を受賞。

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