北澤豪さん(元サッカー日本代表)が語る、サッカーを通じて子どもたちに伝えたい「強く生きる力」【後編】~父親、サッカー指導者としてひたむきに~
元サッカー日本代表で、サッカースクールを主宰する北澤豪さん。前編では、ご自身の子育てについてお話を伺いました。今回は、指導者として、子どもたちとの向き合い方について語っていただきました。
子どもの思いに寄り添って
僕の子どもは3人ともサッカーをしています。長男は強制的にやらせて、次男と長女は、兄がやっている影響で自然とやるようになりました。長男は小学1年生の時、サッカーをやめたいと言って、やめた時期があります。理由はわからず、だた嫌と言うばかりでした。無理やりやらせたのがいけなかったのか、知らず知らずのうちに親としての期待をかけすぎていたのではないかなどと、けっこう悩みました。僕自身は親父に強制されてサッカーをやって、結果的によかった。でも、長男は僕とは違う。悩むうちに、「大事にしなきゃいけないことは、サッカーをやるかどうかではない」と思えるようになりました。
その後、長男は、友達がやっているからという単純な理由でまたやりたいと言い出して再開、今も続けています。次男はサッカーがうまいんです。これは兄と競い合うなかで磨かれていった部分があるから、彼には「お兄ちゃんに感謝しなくてはいけないよ」と言っています。長女は活発で負けず嫌い。野球でもドッジボールでも、ほかの子に負けると、僕に練習相手になってほしいと頼んでくる。仕事で疲れていることもありますが、付き合うようにしています。この前は、キャッチボールして、娘の投げるボールが強くて、突き指してしまいました(笑)。兄2人にもまれて育ったせいか、やんちゃすぎるくらいですが、僕としては、娘の一生懸命さを大切にしたい。妻は、彼女にはもっと女らしくあってほしいという考え。これについては、夫婦間でけっこうもめますね(笑)。
サッカースクールの指導者として
主宰するサッカースクールでは、幼稚園年少から中学3年生まで指導しています。サッカーの指導も子育てと同じで、それぞれが持っている本能的なものを引き出し、どう伸ばしていくかが大切だと思います。
うまく引き出すには、その子の性格を見て、合った言い方ややり方をすることです。さらに、その子の性格には保護者との関係も影響しているから、保護者のことも見ておいたほうがいい。これに初めて気付いた時は、本当に大変なことを始めてしまったと、スクールをやめたくなったくらいです (笑)。30人いたとしたら、30通りの指導をしなければなりませんから。
たとえば、日頃からいちいち保護者に指示されている子は、サッカーでも1から10まで言わないと動き出しません。だから最初は、とりあえずこっちも全部言いますよ。そのうち、「でもな、サッカーで面白いのは、自分の考えでやる楽しみだぞ」と話したりすると、「ここはうちの家とは違う場なんだ」と、自分から楽しくやりはじめたりします。なかには運動が苦手な子もいて、どこからアプローチしたらよいか頭をかかえることもあります。しかし、そんな子も、少しずつサッカーができるようになると、自信がつくと思うし、ほかのことにも積極的になれると思うんです。
また、今は、子どもはほめてやることが大事という風潮ですが、勝負の世界では、ほめることが必ずしもよい結果につながるとは限らない。僕自身、ほめられるより、プレッシャーをかけられたほうがよい結果につながるタイプです。子どもたちもいずれ社会に出ると、さまざまなプレッシャーのもとでやっていかなくてはならないわけで、スポーツを通じて、プレッシャーへの取り組み方も教えてあげられればと思いますね。
子どもが強い心を持てるように
最近、親子サッカー教室などで、年下の30代のお父さんやお母さんから、どう子育てしたらいいかと聞かれることが増えました。僕がうまく子育てしていると思っているから聞くんでしょうけど、僕は子育てもサッカー指導も、いろいろ悩みながらやってきたし、今もあちこちぶつかりながらやっています。うまくいっていないからこそ、一生懸命やっているだけです。
親として、指導者として、大切なこと。それは、子どもたちが生まれ持った本能のようなものを自覚し、トレーニングによって、それを使える能力に変えていくこと、そして、その能力を必要な時に発揮できる強い心を育てることだと思っています。
子どもが何かを達成して喜んでいるのを見るのは、とてもうれしいことです。自分が仕事で成功した時より喜んでいる自分がいます。これが、子どもと関わる一番の楽しみ。これからも、ひたむきに子どもと向き合っていきたいと思っています。