杉山愛さんが語る、「人間力」を育むスポーツの力【後編】~人生の楽しみ方を、トップアスリートに学ぶ~
17歳でプロとなり、最高世界ランクはシングルス8位、ダブルス1位と輝かしい記録を持つ元プロテニスプレーヤーの杉山愛さん。【前編】では、自立心を養うお母さまの子育て観と、25歳で初めて陥ったスランプのお話を伺いました。【後編】では、長いツアープロとしての生活や、世界のトップアスリートたちと過ごしてきた日々を通じ、杉山さんが得た「人間力」とスポーツの持つ力についてお聞きします。
17年間世界を転戦して
私は、年間約250日、週単位で各国を転戦するツアー生活を約17年間続け、グランドスラム連続62回出場という世界記録を達成しました。ツアープロどうしは戦う相手でもありますが、こうした過酷な境遇の中では連帯感が生まれます。尊敬するトップアスリートたちと交流できたことは、私にとっての財産。ランキングが上にいくほど高まる彼らの人間力に魅了されました。
25歳に経験した大スランプを機に、私自身も自分と向き合い、テニスを続ける目的意識が明確になりました。一つは、テニスを通じて自分自身を磨き高めること。もう一つは、見る人が元気になるようなポジティブなエネルギーでプレーをすることでした。意識が変わると日常生活や目にすることが変わり、おのずと選手たちを見る目も、より人としての魅力にフォーカスするようになりました。
ツアーでは、優勝しなければ必ず負けて終わります。異なる文化、習慣、国民性を持つ土地での真剣勝負ですから、行く先々で適応力を発揮しなければなりません。自分をいかに律し、整え、平常心で試合に臨めるかが勝敗を左右します。私自身がトップ10に入って見た世界には、常に高いモチベーションを保ち、人間性を高める努力を怠らない、優れた人間力を持つ選手たちがいました。
トップ選手から学ぶ人間力
ランキング上位のプロに共通しているのは、精神的な芯の強さと柔軟な対応力、そしてユーモアです。こだわりはとても大切にする一方で、それ以外の瑣末(さまつ)なことは一切気にしません。
試合中には、嫌なことも腹の立つことも起きるものですが、いかにイライラせずに現実を受け止めて打開策を見つけ出すか、対応力、判断力、解決力が瞬時に試されます。上位にいくほど、試合はタフになります。トッププレーヤーにしかわからないプレッシャーも当然ありますし、スポンサーとの仕事やお付き合いにも対応しなければなりません。
しかし、彼らはユーモアを交えながら、軽々とこなしていきます。エネルギーの質が高く、オン/オフの切り替えがきっちりしているので、余裕を持って人生を楽しんでいるのです。トッププレーヤーたちには、人としての豊かさとは何かを教えてもらった気がします。
スポーツで養う「がんばる力」「壁を超える力」
海外遠征などで中学、高校を休みがちでしたが、母はどうやら、人として必要な生きる力は、学校で学ばなくともテニスを通じて十分育まれる、と信じていたようです。実際にそのように育ってきて、私も同じ思いです。母はこの経験を研究論文にまとめ、ゴールデンエイジの子どもたちを対象に、スポーツで生きる力を育む活動をしています。
ベースは「楽しめるか」どうか。楽しくないことは続けられませんし、続かなければ多くの能力が開花しません。ご家族はぜひ、子どものワクワクしている表情を見逃さず、もっともっと楽しめるようにサポートしてあげてください。サポート時には、保護者のかたは「待つ力」も試されるかもしれません。「待つ」ことを強いられる場面では、忍耐力を養うチャンスととらえてもらえたらいいなと思います。
スポーツは、「がんばる力」「壁を超える力」も養います。人生はうまくいくことばかりではありません。うまくいかない時にも、それをどうとらえて前向きな力に転換させていくかが重要。スポーツには、試合などその力を養う機会がたくさんあります。負けてもしくじっても、「大丈夫」「がんばれる」と自分を信じる力を養う機会を、幼いうちからぜひたくさんつくってあげてほしいと思います。