教科「道徳」で何が変わる？　変わらない？‐渡辺敦司‐

中央教育審議会が小・中学校の「道徳の時間」を「特別の教科 道徳」（仮称）に格上げするよう下村博文文部科学相に答申（外部のPDFにリンク）したことは、既にお伝えしました。答申をめぐっては、新聞報道などを見ると依然として「国が価値観を押し付けるのではないか」といった心配が根強くあるようです。

答申ではそうした心配を想定して、「特定の価値観を押し付けたり、主体性をもたず言われるままに行動するよう指導したりすることは、道徳教育が目指す方向の対極にある」とうたっています。こうした在り方は何も答申が新たに打ち出したわけではなく、これまでの道徳教育が基本としてきたことです。しかし実際には、学校の教育活動全体を通じて行われる道徳教育が期待される役割を十分果たしていないこと、とりわけ「道徳の時間」が「道徳教育の要として有効に機能していない」（答申）ことも多いという現状認識から、本来の道徳教育をしっかり行ってもらうため「道徳の時間」を「特別の教科」に格上げし、教科書も使って体系的な授業をしてもらおうというのが答申の考え方です。

道徳に関する学習指導要領やその解説（外部のPDFにリンク）には、「道徳性」「道徳的実践力」「道徳的価値」といった専門用語がたくさん出てくるため、専門家でない人にはわかりにくいかもしれません。中教審での論議のもととなった「道徳教育の充実に関する懇談会」でも、有識者委員から「現行の道徳教育は一般の人にはわかりにくい」といった強い批判も出されていました。もちろん道徳教育には家庭や地域の協力が不可欠ですから、専門家でない人にもわかりやすく説明する必要があります。しかし、わかりやすくするために教育の中身までわかりやすく変えたということではありません。
ですから、道徳の教科化によって「学校でしつけをしてくれるんだ」と考えてはいけません。もちろん「基本的な生活習慣、社会生活上のきまりを身に付け、善悪を判断し、人間としてしてはならないことをしないこと」などに配慮は不可欠ですが、そうしたことを教え込んだからといって実際に行動できるとは限らないというのが、現在の道徳教育の考え方です。「道徳の時間」ないしは「特別の教科 道徳」（仮称）で道徳的な価値そのものについて正面から考えさせ、特別活動や各教科の授業など学校の教育活動全体の中でも考えさせながら、自らの判断で行動できる人に育てていこうというのが道徳教育のねらいであって、そうした在り方が変わるものでもありません。

一方で、「道徳の時間」を教科に格上げしなければならないほど、現在の道徳教育が十分に行われていない現状があることも確かでしょう。先生方の間にも、教科の授業に比べて道徳の授業は不得意だという人が少なくありません。教科化に伴って教科書が発行されても、子どもに考えさせることができなければ、何にもなりません。道徳教育の充実のためには今後、個々の担任の先生が道徳の授業をしっかり行えるよう、研修や授業研究の余裕をしっかり持ってもらうことが欠かせないでしょう。