子どもがいじめの加害者かもしれないと思ったら【後編】~事後のサポートと予防策~

「いじめ追跡調査2010-2012」(国立教育政策研究所)によれば、いじめに関わったことがあるという子どもはおよそ9割にも及び、どのご家庭のお子さまもいじめの加害者にもなりうる可能性があると言えます。そこで前回に引き続き、東京学芸大学教育学部准教授で、同大附属の幼稚園と小・中学校でスクールカウンセラーもされている松尾直博先生に、いじめが起きてしまったあとの保護者の対応についてお話を伺いました。



子どもがいじめに関わっていると知ったら……

子どもの友達やその保護者からいじめを知らされた場合、まず本人に事実かどうか確認しましょう。同時に学校にも連絡し、事実について確認していただきたいと思います。被害者とその保護者にも直接会って事実を確認したい、謝罪をしたいとお考えになるかもしれません。ただ、保護者会などで何度か話したことがあるなど相手との関係性が築けている場合はよいのですが、そうでない場合は話がこじれてしまうことがあります。初対面の場合や知り合いであっても冷静に話せない場合は、まずは学校に相談してほしいと思います。
学校へ相談の際は、家庭内での様子も話していただきたいと思います。子どもが塾の勉強のことで悩んでいた、きょうだいげんかをよくしていたなどといったことです。子どもをかばおうとする気持ちはよくわかりますが、隠し事は問題解決の妨げになりかねません。
学校では、校長や学年主任、担任、スクールカウンセラーなど複数の人間が、二度といじめをしないように子どものサポートにあたります。私たちスクールカウンセラーは主に、加害児童生徒にカウンセリングをし、なぜいじめてしまったのかその要因を探るとともに、今後どのようにするかについて子どもと一緒に考えていきます。



友達をいじめてしまった子どもへの向き合い方

学校でも厳重に注意をしますが、ご家庭でも「いじめは決してしてはいけない」ということを改めて伝えていただきたいと思います。思春期を迎え、親子の会話がなく、言うことをまったく聞かないという場合でも、必ず子どもと向き合い「聞きたくない話かもしれないけれど、学校の先生から○○ちゃんをいじめたと聞いた。親としてこれを伝えなければいけない」などと粘り強く話し合ってほしいと思います。
保護者が「友達に誘われてやってしまったのだからしかたがなかった」「いじめられる側にも問題がある」「子ども同士の問題」と考え、いじめを反省する気持ちがなければ、自分がやったことはその程度のものかと思ってしまう可能性があります。保護者が子どもに真剣に向き合い、保護者が被害者へ謝罪する姿勢を見せることで、問題から目を背けている子どもでも、保護者への申し訳なさから問題に向き合うようになるはずです。
そして、子どもへの注意と共に保護者にしていただきたいのは、「悪いことをしてしまったけれども、あなたのことを支え続けるからね」と伝えるということです。これを「適度な問題意識を持たせること」と言うのですが、いじめは絶対にしてはいけないことですので、加害者の子どもが立ち直る余地を残してほしいのです。
いじめを再発させないためには、ご家庭での事後対応が非常に重要です。家庭にとっても大変つらい問題だと思いますが、もういちど家族関係を組み立て直すチャンスだと考えていただきたいですね。もし、いじめが起きてしまったとしても、その原因は家庭だけにあるわけではありません。保護者のかたもご自分を責めずに、学校のスクールカウンセラーなどに相談しながら子どもへのサポートを続けてほしいと思います。



幼いころから人をいたわる気持ちを伝える

繰り返しいじめをしてしまう子どもは、人を大切にする気持ちと技術が身に付いていないといえます。技術というと難しく聞こえるかもしれませんが、人に優しくすることが上手にできないのです。
他者への優しさを身に付けさせるには、幼いころから「自分が大切にされた」という経験をたっぷりさせるということが大切です。これは、決して過保護にしすぎるということではなく、自分が家族や周囲の人から愛されていると感じ、自分も誰かに喜んでもらってよい気持ちになったという経験をたくさん積むということです。そうした経験の多い子はきっと、人をいじめるより、誰かに喜んでもらったほうが気持ちがよいことを学んでいくはずです。
そして、保護者のかたにはなによりも、いじめをすることは悪いことだ、かっこわるいことだということを、折に触れて子どもに伝えていただきたいと思います。 



学校側のいじめ対策とは?

学校側もいじめ対策に取り組んでいます。「いじめ防止対策推進法」が2013(平成25)年9月に施行されたことを受け、国公私立を問わず小学校から高校まで全部の学校に「学校いじめ防止基本方針」の策定と「いじめ防止対策委員会」といった校内組織の設置が義務付けられました。東京都では、一部の学年の児童生徒とスクールカウンセラーとの全員面接を行うといった案も検討されています。
私自身は、児童生徒自身がいじめの防止を訴えるような取り組み(児童会・生徒会によるいじめ撲滅の宣言や相談箱の設置など)を推進するといったことで防止できるのではないかと考えています。海外、特にイギリスでは自発的に子どもたちがいじめをやめようという主体的な取り組みを行う学校があります。日本でも、学校・保護者・地域が一丸となって「いじめはかっこわるい」という発信を続け、子どもたちが自らいじめ防止に取り組むような世の中になることを願っています。


プロフィール


松尾直博

主な著書『絵でよくわかる こころのなぜ』(学研プラス)『ポジティブ心理学を生かした中学校学級経営 フラーリッシュ理論をベースにして』(明治図書出版・共著)『コアカリキュラムで学ぶ教育心理学』(培風館・共著)『新時代のスクールカウンセラー入門』(時事通信社)など


博士(心理学)。公認心理師。臨床心理士。学校心理士。特別支援教育士スーパーバイザー。専門は、臨床心理学や学校心理学。幼稚園、小中学校でのスクールカウンセラーの経験多数。

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