子ども時代から必要な「がんの教育」‐渡辺敦司‐

がんは今や国民の2人に1人がかかる病気であり、かつてのような「不治の病」といったイメージに反して、早期発見・早期治療を行えば治る可能性の高い病気ともなっています。公益財団法人日本学校保健会はこのほど、「がんの教育に関する検討委員会」の報告書(外部のPDFにリンク)をまとめました。文部科学省も新年度から、「がんの教育総合支援事業」(外部のPDFにリンク)に乗り出すことにしています。

政府は2012(平成24)年6月に閣議決定した「がん対策推進基本計画」(12~16<同24~28>年度の5年間)で、子どもの頃からがんの教育と普及・啓発を行うよう求めました。現行学習指導要領の下では、喫煙習慣が肺がんにかかりやすくなるなどの影響があることに触れるようになっていますが、命の大切さなども含めると、体育や保健体育に限らず道徳や特別活動など複数の教科・領域等にまたがって扱う必要があり、がんの教育を実施するかどうかは各学校に任されているのが実情です。
一方で、肺がんのみならず胃がんや乳がんなども含めれば日本人の死因第1位を占め、生涯のうちに男性の58%、女性の43%がかかる病気(2008<平成20>年)だとされる割には、現行の扱いでは不十分であることも確かです。

そこで同会が設置した検討委員会は、報告書で「いのちの大切さを育む、がん教育」を行うよう提言。具体的には

(1)がんに関して正しく理解できるようにする
(2)いのちの大切さについて考える態度を育成する

を目標として、がんの発生要因、予防、早期発見・検診、治療、生活の質などの内容を取り上げるよう求めています。特に中・高校で積極的に取り組み、小学校ではより身近な課題を扱う観点で検討すべきだとしました。一方で、児童・生徒自身ががんであったり、家族にがん患者がいたりする児童・生徒に配慮することや、小児がんなど生活習慣が主な原因ではないがんもあることにも配慮すべきことも指摘しています。

文科省は2014(平成26)年度の新規事業「がんの教育総合支援事業」の中で、有識者からなる検討委員会を設置。各都道府県で行っている先進事例の分析や調査を行い、全国に展開させることを目指すとともに、地域の実情を踏まえたモデル事業を実施することにしています。先進事例としては、2012(平成24)年度から全小・中学校の体育や保健体育の時間で「がんに関する教育」を実施している東京都豊島区教育委員会の例、小学6年生用にリーフレットを作って県内の小学校に配布している群馬県の例などがあります。佐賀県医師会は学校医を中心に「防煙教育」(外部のPDFにリンク)に取り組んでおり、小・中学生用のスライド教材を作っているのも、その一環と言えます。

報告書では今後、指導要領でも特に中・高校で「がんを一定のまとまりとして扱うことが望ましい」としています。がんがこれだけ身近な病気になっている以上、正しい知識と態度を、これからの子どもたちに身に付けさせることが不可欠になっていると言えるでしょう。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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