子どもの心と可能性を開く質問術[やる気を引き出すコーチング]

たとえば、「遅刻をしてきた生徒に、開口一番、何と声をかけますか?」と質問をすると、学校の先生がたの半数以上からは、ほぼまちがいなく、「『なぜ、遅刻したんだ?』と聞く」という答えが返ってきます。よくよく考えてみたら、コーチングに出会う前のわたしも、同じ反応をしただろうと思います。しかし、10年以上コーチングに携わってきた今となってはもう、この質問に非常に違和感を覚えずにはいられません。
「コーチはまずその質問はしません。では、どう質問するでしょうか?」とたずねると、まったく思い浮かばないという顔をされることもしばしばです。皆さんだったら、どう質問しますか?



子どもの心と可能性を開く質問術[やる気を引き出すコーチング]


「なぜ」を「何」に変える

これは、ある中学校の先生のお話です。担任の先生に心を開かない生徒でも、この先生のところには相談に来るというぐらい生徒からの信頼が厚い先生です。
ある時、先生は、不思議に思って、一人の生徒にたずねてみたそうです。
「わたしのところにはよく相談に来てくれるよね。何か理由があるのかな?」
この生徒は、こう答えたそうです。
「入学してすぐのころ、通学途中で自転車がパンクしてしまって、それで遅刻したことがあったんです。自転車を押しながら、自転車置き場に行くと、先生がいて、『ヤバイ! 注意される』と思った時、先生は、『どうしたの? 何かあったの?』と声をかけてくれて、とても嬉しかったです。『あ、この先生なら何でも話を聞いてくれそう!』って思ったんです」。

まさに、「コーチの質問」だなと思います。「なぜ、遅刻したんだ?」という問いかけは、質問の形はしていますが、理由を聞きたいというよりは、遅刻の非を責める詰問として響きます。相手を主語にして使われる日本語の「なぜ」「どうして」(英語の「Why」)の疑問詞には、どうしても「相手を責める」ニュアンスがにじんでしまいます。相手のやる気を引き出すどころか、かえって、委縮や反発を招きがちです。
「何かあったの?」という質問の根底には、「あなたは、始業時間が何時かちゃんとわかっているよね。時間通りに来ることの大切さもわかっているはずだ。時間通りに来られるあなたが遅刻してきたことには、よほどのわけがあるにちがいない」という相手に対する信頼がにじんでいるのです。相手にはそれが伝わるのです。



「ど」のつく疑問詞を意識して

「なぜ」「どうして」を使い続けるとこんな弊害もあります。「なぜ、いつも遅いの?」と言われ続けることで、「あなたはいつも遅い子」というセルフイメージが子どもに刷り込まれます。「なぜ、できないの?」と言われると、「できない理由」にばかり意識が向きます。
その結果、わたし自身がどんな大人になっていったかというと、「わたしは行動が遅いからできない。勉強不足だからできない。まだ若いからできない。そんな余裕がないからできない」と「できない理由」から考える大人になっていました。
ところが、30歳を過ぎてコーチングに出会い、「どうしたい?」「どうなりたい?」「どうすればできるかな?」「どんなことならできる?」とコーチから質問されるようなりました。「できない理由」を一生懸命考えてあきらめていたことが、「もしかしたらできるかも!」と思えるようになりました。今では、「夢を叶える方法は一つじゃないよ。どうすればできるか一緒に考えよう!」と人にも言えるようになりました。
「なぜ」を手放し、「どうして」以外の「ど」のつく疑問詞で質問をしてみませんか。それだけで、三十路を過ぎたわたしでさえ、自分の夢をどんどん叶えられるようになっていったのです。これらの質問を、子どものころから、毎日問いかけられたら、子どもはどうなっていくでしょうか? 子どもたちの中にある無限の可能性にワクワクしてきませんか!


プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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