子どもの可能性を奪うのは大人の価値観!?[やる気を引き出すコーチング]
小学3年生の男の子A君のお母さんには、日頃から悩みがありました。何度言っても、宿題をやらない我が子。担任の先生が、ついに対策を講じました。先生はある日A君に、学校で宿題をやってから帰るように提案しました。A君は、素直に学校で宿題をやって帰りましたが、このことを、お母さんは、本人からではなく、A君の友達から知らされました。「A君は、今日、居残りで宿題させられたんだよ」。
それを聞いたお母さんは、恥ずかしいやら、なさけないやらで、怒り心頭だったそうです。学校から帰ってきたA君に問いただしました。
「今日、学校で居残り勉強させられたんだって?」
「うん」
「宿題をやっていかないからでしょ! それで、どんな気持ちだったの?」
「楽しかったよ!」
「はあー!? 楽しかったって、一人だけ居残りさせられて、嫌じゃなかったの? 友達から、『A君は居残りさせられたんだよ』とか言われて、恥ずかしいと思わないの?」
「別に、なんとも思わないけど」
「もう!! どうして、いつも、あんたはそうなの!?」
ケロリと答えるA君に、お母さんは、かなり絶望したそうですが、この一部始終を聴いた私は、A君に、限りない可能性を感じました。こういうお子さんこそ、関わり方によって、どんどん伸びていくように思えてなりません。
「問題」と決めつけているのは誰なのか?
「居残り勉強をさせられるなんて恥ずかしいこと」というお母さんの価値観が、A君に対する怒りや絶望につながっています。ところが、当の本人は、「楽しかった」と言っているのです。「恥ずかしい」とは少しも感じていない様子です。しかも、いつもしなかった宿題を終わらせて帰ってきているのです。これはすばらしい進歩です。どこが「問題」なのでしょう? お母さんが、「問題」として取り扱っているだけではないでしょうか。
私なら、A君にもう少し質問をしてみたいと思います。
「へえ、楽しいと思えたんだね。どんなところが楽しかったの?」と。
たとえば、そんな対話から、もしかしたら、「宿題は学校の教室のような環境でやるとけっこういいかも」と自ら気付くかもしれません。今回の体験をふりかえることで、宿題をするための効果的な方法を本人が編み出すかもしれません。こちらの価値観で、「それは問題」と決めて関わるのではなく、子ども自身はどう感じているのか、どう考えるのかをよくよく聴いてみることをおすすめします。
許容する
A君に限りない可能性を私が感じたのは、本来なら、ネガティブな感情が湧いてきそうな体験でも、「楽しかった」「なんとも思わないけど」と言ってのけているところです。これは、A君の大いなる強みだと感じます。物事を必要以上に悲観的・否定的にとらえたり、周囲の目を気にして自己卑下したりする子どもは案外多いものですが、A君のように「意に介さない気質」は、ある意味で、財産です。その点は、広い心で、受けとめてあげてほしいなと思います。
「宿題をやらないからダメな子」「学校に行かないから問題児」と、目先の現象だけをとらえて指摘してしまうと、本来持っている資源もしぼんでしまいます。それは、非常にもったいないことです。「ここはできていないけれど、まあ、いいか。こんなよいところもあるし」と許容してあげることが、かえって、子どもの背中を押します。
「失敗したらダメだよ!」と言われると、委縮します。失敗を恐れるようになります。「失敗してもいいよ。失敗もぜひ体験しておいで」と失敗も許容してあげると、子どもは安心してチャレンジするようになります。失敗を恐れて行動しない子になるのか、伸び伸びとチャレンジする子になるのかは大人の許容しだいです。子どもの可能性を、大人の価値観でしぼませないでほしいと思います。
『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』 <つげ書房新社/石川尚子(著)/1,620円=税込み> |