振り替えで大わらわの「標準授業時数」って何?

昨年は新型インフルエンザが猛威をふるい、休校や学級閉鎖が相次いだ影響で、全国の学校では潰れた分の授業を補うために、冬休みなどを削ったり、終業式にも授業を行ったりするなどの対応に追われました。中には、春休みまで振り替え授業に追われる学校もあるかもしれません。もちろん、臨時に休みになったのですから、その分の授業をしっかりやってもらうのは、当たり前とも言えるでしょう。でも、保護者の方々が子どものころは、そんなことはあまり大きな問題にならなかったような気がしませんか? 実はここ10年ほどの間に「授業時間の確保」をめぐって大きな変化があったことが、背景にあるのです。

授業時間の確保というと、多くのかたは「教科書を終わらせるのに必要だからでしょう?」と考えるのではないでしょうか。これは、ほぼ当たっていますが、必ずしも正確ではありません。小、中学校で1年間に行う授業時間数については、学習指導要領に定めがあります。これを「標準授業時数」といいます。2008(平成20)年度までは小学校が782時間(1年生)~945時間(4年生以上)でしたが、今は新しい指導要領の実施に向けた「移行措置」で徐々に授業時間が増やされていることは、ご存じの通りです。
学校で行うべき授業時間数を「標準」として示すやり方は、昔も今も変わっていません。ただ、「標準」の解釈がくせ者です。以前は、あくまで「標準」なのだから、実際に授業を行った時間が少しぐらい足りなくても、だいたい学習内容が十分こなせたと校長が判断すれば、それでOKとされることが、ごく普通に行われていました。

しかし文部科学省は、2002(平成14)年度からの現行指導要領の全面実施が近づくにつれ、学力低下批判の高まりを打ち消そうとして、「指導要領は最低基準だ」と強調し始めました。その中で定められている「標準」授業時数も「最低限」行うべき授業時間数であり、むしろ「標準」を超える時間をやってもよいという意味なんだ、という解釈が示されたのです。「標準時数をちょっとぐらい下回っても大丈夫だ」と考えていた多くの学校関係者は、新指導要領の実施の裏で授業時間確保への対応に大わらわだった、という経緯が、実はあったのです。さらに今、新しい指導要領に向けた授業時間増のやり繰りに追われるなかで起こったのが新型インフルの猛威だった、というわけです。

もちろん、標準授業時数は、指導要領に盛り込まれた内容をこなすために必要な時間として算出されているものです。他方、教科書は指導要領の内容を踏まえて作られていますから、標準授業時数が「教科書を終わらせるための授業時間」だと言っても、あながち間違いではありません。しかし、授業の進度や子どもの理解度などがクラスによって違うことは、よくあることですよね。十分な指導時間を確保することはもちろんですが、ただ指導要領に示された時間をこなすだけでなく、何より一人ひとりの子どもに学習内容をしっかり身に付けさせることを第一に考えて、授業を進めてほしいものです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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