「高校無償化」で私立の授業料がアップ?

民主党政権による「高校無償化」が、昨年4月から始まりました。公立高校の授業料は「不徴収」ということで実質無料となり、私立高校には「就学支援金」という形で、公立高校の授業料と同じ金額が国から学校に交付されています。ところが、高校無償化と同時に、39都道府県で、私立高校の授業料が値上げされていることが文部科学省の調査でわかりました。なぜ、高校無償化によって私立高校授業料の値上げが起こったのでしょうか。

私立高校の2010(平成22)年度平均授業料は37万1,950円で前年度より4.9%アップしています。09(同21)年度は前年度比0.9%増でしたから、高校無償化が始まった10年度の授業料の値上げ幅がいかに大きかったかが伺えます。都道府県別に見ると、平均授業料がアップしたのは39都道府県に上っています。一方、施設設備費は平均17万4,207円で逆に前年度より7.6%減となっており、入学金を含めた全体額は、平均71万3,006円(前年度比0.6%増)とほぼ前年度と同額でした。

文部科学省は、授業料値上げの理由について、「把握していない」としています。しかし、値上げの理由はどうやら私立高校に対する、高校無償化の仕組みにありそうです。
簡単に説明すると、私立高校では、生徒1人当たり年額11万8,800円を上限に就学支援金が国から交付されて、実際の授業料との差額分を保護者から徴収することになっています。
ある私立高校の例を見ると、授業料減免制度のある特進コースなどに成績優秀者を集めていましたが、高校無償化開始と同時に、授業料の減額をやめて、値上げしました。というのも、国から交付される11万8,800円はあくまで上限であり、実際の授業料がそれよりも安いと、その分だけしか交付されないからです。安かった授業料を値上げして、上限いっぱいの支援金をもらうおうというねらいです。ただし、授業料の値上げ分が実際に保護者に跳ね返ることはないので、保護者にしてみれば、授従来通りということになります。
また、施設設備費など授業料以外の納付金は就学支援金の対象とならないため、先に指摘したように授業料を引き上げる代わりに施設設備費を値下げして、保護者の負担軽減を図ったところが多いようです。
授業料を値上げすれば、国から就学支援金が満額もらえるので収入が増える。しかも、値上げ分は保護者の負担増につながらない形で処理したり、施設設備費の値下げとして還元したりするので保護者も得をする。確かに、一見すると誰もが満足するやり方のように見えます。しかし、そのために国の就学支援金が余計にかかっていることを、見落としてはなりません。
就学支援金の元は、国民の税金です。10年度の平均納付金額は、前年度とほぼ同額なので「全体で見れば値上げはない」と反論する向きもありますが、そのために本来必要のない国民の税金が使われたことは間違いないでしょう。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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