「社会に開かれた教育課程」ってナニ?

小学校で新しい学習指導要領が全面実施される2020年度まで、あと半年余りに迫っています。高学年での英語の教科化やプログラミング教育の導入などに注目が集まっていますが、それらに比べれば「資質・能力の育成」や「社会に開かれた教育課程」については、学校関係者以外には理解があまり広がっていないようです。
しかし、とりわけ「社会に開かれた教育課程」は、保護者にも「認識の共有」が求められているといいますから、決して無関心ではいられないようです。

新しい時代の資質・能力を育むため

新指導要領の基になった中央教育審議会の答申(2016年12月)では、「〈よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創る〉という目標を学校と社会が共有し、連携・協働しながら、新しい時代に求められる資質・能力を子供たちに育む『社会に開かれた教育課程』の実現を目指し、学習指導要領等が、学校、家庭、地域の関係者が幅広く共有し活用できる『学びの地図』としての役割を果たすことができるよう」(小学校指導要領解説・総則編)に、指導要領の枠組みを改善したと説明しています。

答申を基にして2017年3月に告示された小学校の指導要領でも、これまでにはなかった前文を設け、そこに「これからの時代に求められる教育を実現していくためには、よりよい学校教育を通してよりよい社会を創るという理念を学校と社会とが共有し、それぞれの学校において、必要な学習内容をどのように学び、どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを教育課程において明確にしながら、社会との連携及び協働によりその実現を図っていくという、社会に開かれた教育課程の実現が重要となる」と明記しました。
これだけ読んでも、ピンとこないかもしれません。そこで、文部科学省職員の話に耳を傾けてみましょう。

保護者とも認識の共有を求める

文科省初等中等教育局の合田哲雄・財務課長は、当時の教育課程課長として、大掛かりな今回の改訂を主導してきました。先ごろ学習院大学で開催された日本教育学会の公開シンポジウムで行った説明の中で、「社会に開かれた教育課程」とは何なのかを端的に示していました。

それによると、これからの社会では、人工知能(AI)をはじめとした先端技術の発達で、今ある仕事の多くが新しく生まれる仕事に置き換わっていきます。
一方、たとえ有名大学に進んだとしても、AIに代替されない職業に就けるようなカリキュラムが用意されているとは限りません。激変する時代に対応できるような資質・能力を、幼児教育や初等中等教育のうちから徐々に培っておく必要があり、だからこそ新指導要領では資質・能力の育成を打ち出した、というわけです。

合田課長は「社会に開かれた教育課程」を、単に「社会と連携しよう」と呼びかけるような「フワフワしたものではない」と強調。時代が変わっているということを保護者とも共有してもらうという「シビアな認識に基づいて書いた」といいます。
 「何を学ぶか」にとどまらず、「何ができるようになるか」も重視しているのが、新指導要領の眼目です。保護者の方々も、全面実施の前にぜひ学校の説明をよく聞いて、その学校の「社会に開かれた教育課程」とは具体的にどういうものかを、理解・共有してほしいものです。

(筆者:渡辺敦司)

※小学校学習指導要領・解説 総則編
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htm

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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