なぜ増える!? 先生の「希望降任」

せっかく管理職になれたのに、自ら希望して降格してもらう……。こんなひとが全国の公立学校で増えていることが、文部科学省の調査でわかりました。いったい、どういう事態が起こっているのでしょうか。

都道府県や政令指定都市の教育委員会では、多くが「希望降任制度」を設けています。管理職などになったあと、処分として降格させられるのとは別に、本人が望んで降任してもらう、というものです。昔からごくたまに、退職前の校長や教頭が最後の1、2年だけ教諭、つまりヒラの先生にしてもらう、といったケースは、ないわけではありませんでした。教職生活の最後は教室で子どもに授業をして終わりたい、という先生がいたのです。ところが、最近になって増えている降任は、そうではありません。

具体的な数字を見てみましょう。希望降任制度により降任した公立学校の先生は、2003(平成15)年度66人→2004(同16)年度81人→2005(同17)年度71人→2006(同18)年度84人→2007(同19)年度106人。年によって増減はあるものの、長い目で見れば増加傾向にあると言えます。

問題は、内訳です。校長から教頭への降任は各年度3人→2人→ゼロ→ゼロ→1人、同様に校長から教諭への降任は3人→3人→7人→8人→4人と、そう多くありません。これに対して、最も多くを占めるのが教頭から教諭への降任で、60人→71人→62人→62人→70人と、一定して60~70人の間で推移しています。教頭先生からの降任希望者が大部分を占めている、というわけです。

教頭から降任の申し出が多いことの理由を考える際に、示唆深いデータがあります。文部科学省が2006(平成18)年、40年ぶりに行なった勤務実態調査によると、平日1日の平均労働時間は、教諭で11時間近く、校長で10時間強だったのに対して、教頭では12時間近くと、最も長かったのです。これは、いずれも学校にいて仕事をしている時間ですから、家に持ち帰っての「ふろしき残業」を含めると、12時間を超える月がしばしばでした。確かに学校の世界では、校長の補佐から飼育動物の世話まで「何でも屋」の教頭先生は、平日は一番早く来て一番遅く帰り、土・日も休めない、というイメージで一致しています。

最近の傾向として増えているのが「校長→教頭」「校長→教諭」「教頭→教諭」のいずれにも当てはまらない「その他」の降格で、2003(平成15)年度はゼロでしたが、2004(同16)年度以降は5人→2人→14人→31人と、最近になって急速に増加しています。これは、教頭と一般教諭との間に「主幹教諭」や「指導教諭」といった職種が新設され、任命も増えているためです。しかし教頭先生と同様に、「中間管理職」としての苦労は多いようです。

学校の先生が忙しいことは、最近、ようやく一般にも認知されるようになってきましたが、多くの先生が授業に打ち込めるようにするためにも、こうした中間管理職の負担をどう軽減するかも、重要な課題になっているのです。

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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