物語文はできているようですが、説明文が苦手です[中学受験]

平山入試研究所の小泉浩明さんが、中学受験・志望校合格を目指す親子にアドバイスする実践的なコーナーです。保護者のかたから寄せられた疑問に小泉さんが回答します。



質問者

小5女子のお母さま


質問

物語文はできているようですが、説明文が苦手です。普段、塾や習い事で時間が無くて、読書の時間もなかなかとれないでいます。難しい言葉に慣れていないのが原因だと思うので、娘とは難しい言葉を使って会話するようにしたり、またその言葉を解説したり言い替えたり……いろいろやっていますが、今後どうすれば良いのか悩みどころです。


小泉先生のアドバイス

易しい「テーマ」の問題文から読み始め、読み慣れること

最初に、お子さまのタイプと成績をまとめてみます。お子さまは非常に論理的なタイプですが、同時にかなり弱気なタイプでもあります。国語の偏差値は60を超えていますが、説明文や論説文(総称して説明的文章とします)が苦手。この苦手な説明的文章を、いかに克服するかというご質問です。
「読書の時間もなかなかとれない」ということですが、お子さまのケースに最適な学習方法は読書ではありません。「テーマ※1」を活用した勉強法をおすすめします。すなわち、1)入試に頻出する「テーマ」に関する知識を蓄えるとともに、2)易しい「テーマ」の問題文から読み始め、3)読み慣れることで得意な「テーマ」を増やしていきます。4)また、志望校の頻出テーマは必ず得意になっておくことも必要です。

まず「テーマ」に関する知識ですが、一番大切なことは、中学校入試には頻出のテーマがあるということです。説明的文章に限れば、2010年度入試の頻出テーマ※2は「言語・コミュニケーション」「自然・環境」「動植物」「文化・文明」(頻度順)などで、これら四つの合計頻度は55%※3でした。
そして、これらのテーマに関する基礎知識を持っていれば、知らない受験生よりはるかに有利に問題文を読み解くことができるということです。つまり、お子さまが説明的文章を苦手としている原因は、その問題文のテーマについての基礎的な知識の不足なのです。これはお母さんも指摘されている通り、「難しい言葉に慣れていない」ということですが、さらに言うならば、頻出テーマに関する体系的な知識が不足しているということです。
たとえばテーマ「自然・環境」では、≪里山≫や≪保護と保全≫についての話がよく出てきます。場合によっては、それらの言葉に関する詳しい説明なしの問題文もあります。そして、それらに関する知識を持っているかどうかによって、文章の読みやすさが大きく違ってくるのです。
なお、入試の頻出テーマに関して知識をまとめた書物としては、拙著『中学受験 必ず出てくる国語のテーマ』(ダイヤモンド社)をご覧ください。お子さまが読んでも良いですが、まずはご両親にお読みいただき、都度、お子さまにそれらの知識を伝えると良いでしょう。たとえば、塾のテキストで「自然・環境」に関する問題文が出てきたら、その時に、それについてのさらなる知識を与えるのが効果的かつ効率的な指導法だと思います。

さて、次は「易しい『テーマ』の問題文から読み始める」です。既に挙げた四つの頻出テーマですが、実は難易度がかなり違っています。易しい順に並べると、「動植物」→「自然・環境」→「文化・文明」「言語・コミュニケーション」となります。つまり、「動植物」に関して書かれた問題文のほうが、「言語・コミュニケーション」に関して書かれたものよりも易しい場合が多いということです。ですから、現在5年生のお子さまなら「動植物」か「自然・環境」をテーマにした問題文から読み始めると良いでしょう。
そしてここが大切なポイントなのですが、同じテーマを繰り返し読ませてください。同じ問題ではありません。あくまでも違う問題ですが、同じテーマに関して書いてあるものです。同じテーマの問題文をいくつも読んでいくと、「前に同じようなことを読んだことがある」という経験をするようになります。それが、そのテーマに関する知識が培われてきたということです。そして、そうなってくると楽しくなってきて、どんどん能動的に読めるようになります。
お子さまが「弱気タイプ」であることは既に述べましたが、実を言うと、このタイプのお子さまは自分があまり知識のない事柄についてはやや消極的になる傾向があります。強気タイプのお子さまなら最初はわからなくてもどんどん読み進めて、最後には「だいたいこんなことかな?」と思える文章でも、弱気タイプのお子さまは「こんなの知らない」という思いを持つと、もう読み進めなくなりがちです。そして形だけは最後まで読んでいたとしても、実は目で文字を追いかけているだけで、内容が頭に入っていないことが多いようです。
しかし、事前に知識を入れることで、「弱気タイプ」のお子さまでも最後まで読みとおすことができるようになります。そして難しい文章に慣れてくると、少しくらい未知の内容でも、なんとか読もうとする意欲がわいてきます。説明的文章を読み慣れることにより、難しい文章を読む気力が養われたということです。

最後は、志望校に頻出のテーマを必ずチェックしておいてください。たとえばお子さまの志望校である豊島岡女子はここ数年、「文化・文明」が説明的文章の頻出テーマです。また吉祥女子は「動植物」や「言語・コミュニケーション」をチェックしておくと良いと思います(たとえば、吉祥女子で出題された2006<平成18>年や2010<同22>年の説明的文章が「動植物」をテーマにしたものです)。おそらくこの作業は、6年生の夏休み以降になるとは思いますが、あまりにも遅くなると、入試直前で慌てることになりますから注意してください。


※1:主題。文章の中心となる題材や思想。
※2:2010(平成22)年度入試・首都圏の国立・私立中学校を中心に80校、161問題を分析。
※3:55%は説明的文章内における頻度。


プロフィール


小泉浩明

桐朋中学・高校、慶応大学卒。米国にてMBA取得後、予備校や塾を開校。現在は平山入試研究所を設立、教材開発など教務研究に専念。著作に「まとめ これだけ!国語(森上教育研究所スキル研究会)」などがある。

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