「ソーシャルスキル」っていつどこで身に付けるもの?[ソーシャルスキル]

「ソーシャルスキル」は特別なものではありません

ソーシャルスキルとは、平たく言うと「社会性」のことです。ただ、「社会性」と言っても、一体どういうことが身に付けられれば「社会性がある」のかわかりませんよね。それに、「社会性」というと親との関わりの中ではなく、自然に身に付いていくイメージがありませんか? でも、「社会性」はそもそも保護者や周りの人とのかかわり合いの中で「学んで」いくものです。そう考えると、「社会性」よりも、「ソーシャルスキル」といったほうが捉えやすいですよね。

では、今なぜ「ソーシャルスキル」が注目されているのでしょうか。もともと「ソーシャルスキル」は、家庭や地域の人々などいろいろな人間関係の中で身に付けていくものでした。しかし、核家族化が進んだり地域のコミュニケーションが希薄になってきたりして、なかなか社会の中で学べなくなってきたのですね。そこで、「ソーシャルスキル」を意識して身に付けることが大切だという声が広がってきたのです。


人はどうやって「ソーシャルスキル」を身に付けていくの?

実は、心理学では、人がどのようにして「社会性」を身に付けていくか、というメカニズムがある程度わかってきています。「ソーシャルスキル」の学習プログラムは、そのメカニズムをもとにして作られたものです。まずは簡単に、そのメカニズムをご紹介しましょう。


  • 条件付け
    小さな子どもは、善いことと悪いことの区別がつきません。そこで、たとえば、子どもがクマさんのぬいぐるみの頭をなでていたら「●●ちゃん、優しいね。なでなでしているんだ」とお母さんが声をかけてあげると、子どもは「これが優しいってことなんだ」と、自分の行動と言ってもらった言葉とを結び付けて学びます。

    反対に、ひもを引っ張ったら「危ないからやっちゃだめなのよ」と叱ります。そうすると、子どもは「これはいけないことなんだ」と学習します。つまり、子どもの行動に対して、周りの大人がほめたり叱ったりして、善いことと悪いことを学んでいくのが、条件付けです。
  • モデリング
    お友達や兄弟姉妹が、周りの人にほめられたり叱られたりしているのを観察して、学習していくことです。
  • リハーサル
    学んだことを行動をとおしてアウトプットできるようになるためには、何度も練習をすることが大切です。たとえば、「あいさつは、おじぎする」と学んだら、子どもは何度も頭の中や実際の行動として繰り返す中で、覚えていきます。
  • フィードバック
    子どもは自分の行動の善し悪しがなかなかわかりません。そこで、親や周りの大人が、「○○ちゃんよくできたね。うれしかったね」「こうしたほうがもっとよかったね」などと具体的なことをわかるように伝えてあげると、善し悪しを適切に学んでいきます。
  • ホームワーク
    たとえば「あいさつ」が一度だけできても、日常的に継続したり、他の場面でも応用できたほうがいいですよね。宿題のように、もう一回自分で復習してみて、身に付けていく方法もあります。

「ソーシャルスキル」は誰でもどんな年齢の人でも学べます

このようにして、人は社会性を徐々に身に付けていくわけです。でも、意識的に身に付けさせる必要があるからといって、一気に「教えなきゃ」と気負う必要はありませんし、難しく考えなくても大丈夫です。
「ソーシャルスキル」は、誰でもどんな年齢の人でも学べて、学ぶべきことが具体的になっているのが良いところです。それに、練習次第でどんどん上手になっていきます。

大人の間でも、今、ビジネスマナー講座や話し方教室などが注目されています。これらもソーシャルスキルの一つで、なにも特別なことではありません。大切なのは、一過性で学んで終わるのではなく、気楽に気軽に取り組んでいくことです。
ソーシャルスキルは、保護者も子どもも毎日楽しく過ごせるために役立つコツのようなものです。次回からは、具体的な実践方法をご紹介しますので、ぜひ親子で楽しみながら身に付けていきましょう。


プロフィール


渡辺弥生

法政大学文学部心理学科教授。教育学博士。発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学が専門で、子どもの社会性や感情の発達などについて研究し、対人関係のトラブルなどを予防する実践を学校で実施。著書に『子どもの「10歳の壁」とは何か?—乗り越えるための発達心理学』(光文社)、『感情の正体—発達心理学で気持ちをマネジメントする』(筑摩書房)、『まんがでわかる発達心理学』(講談社)、『子どもに大切なことが伝わる親の言い方』(フォレスト出版)など多数。

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