学力向上で「実技系教科」はどうなる

教育基本法の改正や教育再生会議の第1次報告を受けて、学習指導要領の改訂論議が急ピッチで進んでいます。これまでの中央教育審議会の議論では、国語と算数・数学、理科の授業時間を増やす方向で検討されていました。教育再生会議はこれに英語と社会・歴史を加えた「基本的教科」も増やすよう求めています。いわゆる主要5(4)教科と呼ばれているものです。確かにこうした教科に時間をかけて、わかるまで教えてくれるのは結構なことです。ところで、それ以外の「実技系教科」などと呼ばれる教科は、どうなるのでしょうか。

小・中学生の保護者のかたは、お子さまの時間割が週によって変わっていることにお気付きでしょうか(学校によって違いますが)。これは、1年間の授業時間数が35で割り切れない教科が数多くあるためです。なぜ35か、というと、学校の授業は夏・冬休みなどを除くと、年間35週間が基準となっているからです。年間105時間なら週3時間、年間140時間なら週4時間、というわけです。ところが、今の指導要領は毎週土曜日を休みにした完全学校週5日制に合わせて、1年間の総授業時数を減らしました。その際、各教科を少しずつ減らす方法を取ったのです。たとえば小学6年生では社会100時間、理科95時間、体育90時間など、35の倍数ではない時間数が多く並んでいます。

ここで大きく影響を受けたのが、もともと授業時間数の少なかった実技系教科です。中学1年生の年間時間数を例に見ると、主要5教科がいずれも35の倍数になっているのに対して、実技教科では技術・家庭が70時間であるほかは、音楽と美術が各45時間、保健体育は90時間と半端な時間になっています。特に音楽や美術では、週2時間の授業を毎週行うことができません。減らされた時間数で時間割をどうやり繰りし、授業の効果を上げるかで、学校は苦労しているわけです。

教育再生会議の第1次報告は、「授業時数の10%増加」を打ち出しています。単純に計算すれば、現在は年間945時間の小学4年生から6年生で95時間前後、年間980時間の中学校で98時間増える、ということになります。これが実現すれば、2001(平成13)年度まで実施されていた改訂前の指導要領(小学4年生から6年生で年間1015時間、中学校で1050時間)をも上回ることになります。

これらの増加分の多くが、主要教科に配分されるものと見られます。もちろん実技系教科でも半端な時間数の解消などが図られる可能性はありますが、これまでの流れでは大幅な時間増は考えにくいでしょう。

ただ、年間の授業時間数を増やすということは、土曜日に正規の授業を行いでもしなければ、夏・冬休みを短縮するとか、1日7時間の授業を行うとか、朝10分の学習時間などを授業時間としてカウントするとかの工夫がなければ、できないことです。その場合、どうしても学校生活にうるおいがなくなります。何より芸術や体育などは、子どもが将来にわたって精神的・肉体的にも豊かな生活を送るうえで、本当に必要のないものなのでしょうか。

もちろん授業時間数には限りがありますから、あれもこれも増やすわけにはいきません。しかし、「学力向上」の大合唱でつい忘れがちな情操面や健康面なども含めて、学校全体でいったい子どもをどう育てていこうとするのか、あるいは、そのためにどういう授業を行っていくべきなのか、冷静に考える必要もありそうです。

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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