子どもの言動をすぐ悪いほうにとってしまう [教えて!親野先生]
教育評論家の親野智可等先生が、保護者からの質問にお答えします。
【質問】
ある時、子どもが「××するより、お菓子を先に食べたい」と言ったので、私はイラッとして「わがまま言わないで」と答えました。すると、夫が私に「別にわがままじゃないよ。だって、○○だもの」と言いました。こういうことがよくあります。私は子どもが言ったことや行動に対して、すぐ悪いほうにとってしまいがちなようです。
相談者・あまがっぱ さん (年長 女子)
【親野先生のアドバイス】
あまがっぱさん、拝読しました。
自分の解釈の仕方に疑問を持つのは、とてもよいことだと思います。自分の解釈には何の疑問も持たないまま、子どもを叱り続けたり、何でも周りのせいにしたりする人がほとんどですから。
人には誰でも「解釈の癖」、つまり「物の見方や考え方の癖」があります。認知療法では、これを「認知のゆがみ」と言います。そして、この癖(認知のゆがみ)によって、不必要なストレスを感じてしまうことがあります。
たとえば、授業参観の日のこと、晴香さんはママ友の道江さんに「今日はいい天気ね」と話しかけたとします。すると、道江さんは無表情に「そうだね」と言ったきり、うつむいてしまいました。
それを見た晴香さんは、「自分は嫌われているに違いない」と思いました(晴香さんの認知)。そして、とても悲しい気持ちになり、居たたまれなくなって懇談会に出ずに帰宅してしまいました。家に帰ってからも、度々思い出して胸が苦しくなりました。
同じ日に、玲奈さんも道江さんに話しかけました。
すると、晴香さんの時と同じように、道江さんは「そうだね」と言ったきり、うつむいてしまいました。
それを見た玲奈さんは、「道江さん、元気がないみたい。どうしたんだろう。心配なことでもあるのかな? あとでもう一度話しかけて、話を聞いてみよう」と思いました(玲奈さんの認知)。「嫌われた」とも思いませんでしたし、悲しいとか胸が苦しいなどということにもなりませんでした。
そして、懇談会のあとにまた道江さんに話しかけてみました。すると、元気な返事が返ってきて、そのまま30分くらいおしゃべりが弾みました。
このように、同じ状況でも人によってまったく違う認知になります。認知の違いがストレスの有る無しに直結し、その後の行動も決定付けます。
認知が違うことで、晴香さんは大きなストレスを感じましたが、玲奈さんは全然ストレスを感じませんでした。
ところで、あなたの普段の認知は、晴香さんと玲奈さんの認知のどちらに近いですか? これをお読みいただいたのをきっかけにして、日頃から自分の認知の癖に気付くように心がけるとよいと思います。
自分が何か認知した時に、それをもう一人の自分が見ている感じで気付くようにするのです。
すると、だんだん自分の認知の癖がわかってきます。
心がけていれば、子どもが何か言ってイラッとした時も、「あ、自分は今イラッとした。子どもの言い分をわがままだと感じたからだ」と気付けるようになります。
このように気付くだけで、イライラに飲み込まれて感情的に叱るようなことは避けられます。
さらに「他の考え方、他の認知はできないかな? えーと、そうか、わがままとは限らないかも。この子にしてみれば正当な言い分なのかも」と進めることができれば、自分の認知の癖に飲み込まれなくてすみます。
とにかく、まずは自分の認知に気付くことが大事で、それをメタ認知と言います。メタといのは「一段上の」「より高次な」という意味であり、メタ認知とは自分の認知を認知するという意味です。
自分自身をもう一人の自分が一段上から見る感じです。
最後に大事なことをまとめます。
まずは、メタ認知によって日頃から自分の認知に気付くように心がけましょう。すると、自分の認知の癖がわかってきます。
そして、一つの認知をした時に、「他の考え方、他の認知はできないかな?」と考え直してみましょう。
これが普通にできるようになると、物の見方や考え方が多面的になります。一つの見方にとらわれたままイライラに飲み込まれてしまう、などということはなくなります。
親としてだけでなく、一人の人間として非常に大きく成長したと言うことができます。
さらに詳しく知りたいかたは、「認知のゆがみ」「認知療法」などのキーワードで検索してみてください。
私ができる範囲で、精いっぱい提案させていただきました。
少しでもご参考になれば幸いです。
皆さんに幸多かれとお祈り申し上げます。
(筆者:親野智可等)