「小1プロブレム」を乗り越える 「自分を律する力」を育むために

入学間もない小学1年生の教室で起こる、先生の話を聞かない、授業中立ち歩くといった問題、「小1プロブレム」。この問題に詳しい汐見稔幸先生に、その予防と解決のため、家庭で取り組んでほしいことについてさらに詳しく伺います。

■家庭でのストレスが「小1プロブレム」の引き金に

日本教育学会が15年くらい前に行った調査では小1プロブレムと家庭でのストレスには密接な関連があることがわかりました。小1プロブレムの背景には、家では、「ああしなさい」「こうしなさい」と指示や命令をされるばかりで、話を聞いてもらえない子どもたちが、ため込んだストレスを学校で発散する……というケースが多く見られたのです。ストレスを抱えてキレやすくなった子どもが、先生に反抗し始めると、似た状況にある他の子も同調し、収集がつかなくなるといった事態が簡単に起こります。

ですから、行儀よくするよう再三注意する、家で厳しくする、やりたくない習い事をさせるといった方向は逆効果になります。むしろ、子どもの話をよく聞いてあげ、親子でゆったり会話を楽しむことが大切です。
とはいえ「今日、学校でどうだったの」「宿題やったの」といった質問は、ただの「尋問」になってしまいます。楽しい会話が大事です。

■「4打数1安打の会話術」で自立を促す

指示や命令を減らすと、わがままになるのではと心配されるかたも多いと思います。「わがまま」は自分の欲望だけを押し通そうとする状態。他の人の立場も考えながら、取るべき行動を自分で決められるのが「自立」です。自立を促す会話のしかたにはルールがあります。

たとえば、「今日は家族で外食するから、夕方5時には帰ってきてね」と約束していたのに、子どもの帰りが遅くなった場合。いきなり叱り付けずに、まず、子どもの言い分を聞く。「○○ちゃん家の子犬がかわいくて、つい時間忘れちゃった」と言われたら、「そうなの。それはわかるけれど……」といったんは共感してあげる。「でも、何かあったのかなって心配したよ」「お店の予約の時間に遅れちゃうよ。こういう時どうしたらいいと思う?」と、自分の気持ちも伝え、考えさせる。「ごめんなさい。今度から、遅れそうになったら必ず電話するね」と子どもが言えば「そうしてくれれば助かるな」と励ます。

「聞く」「共感する」「考えさせる」「励ます」。私はこの頭文字を取って、KKKH、野球用語ではKが三振、Hがヒットですから、「4打数1安打の会話術」と呼んでいます。

■「聞き合う」「共感し合う」関係づくりを

話をしっかり聞き、共感してあげることで、子どものストレスは軽くなります。失敗も悪いことも、家でなら本音で話せるという空気をつくってあげること。失敗は叱るより笑い飛ばしてあげたいですね。わざと人の気持ちを傷付けるなど、許せないことに関してははっきりと保護者自身の考えを伝え、相手の気持ちや取るべき行動について、本人に考えさせてください。

自分の考えは頭ごなしに否定されず、尊重してもらえるという安心感はとても大切なものです。このような会話のキャッチボールを続けることで、他の人にも自分とは違う立場や考え方があり、それを尊重すべきことも実感できます。互いに「聞き合う」「共感し合う」習慣が付けば、決してわがままにはなりません。これは、親子に限らず、すべての人間関係に通用する会話術であり、答えのない問題を皆で話し合うアクティブ・ラーニングの場でも欠かせないスキルです。

つまり、子どもの主体性や考える力を重んじる、いわゆる21世紀型の学びを目指すことは、そのまま「小1プロブレム」の軽減や解消につながると言っても過言ではありません。

好奇心の芽や、さまざまな立場からものを見る視点は、日常生活の中で育まれていきます。
子どもたちとの、日々の何気ないやりとりを大切にしてあげてください。

プロフィール


汐見稔幸

白梅学園大学学長・東京大学名誉教授。文部科学省「中央教育審議会」教育課程部会委員も務める。著書に『本当は怖い小学一年生』(ポプラ新書)がある。

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