法政大学 法学部 法律学科(1) 模擬裁判とディベートで民法と交錯する刑法の問題を研究[大学研究室訪問 学びの 先にあるもの 第17回]
法政大学 法学部 法律学科(1)
模擬裁判とディベートで民法と交錯する刑法の問題を研究
日本が転換期を迎えた今、大学もまた大きく変わりつつあります。そんな時代に、大学や学部でどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。答えを求めて、前回までさまざまな大学の研究室を訪問してきました。連載17回目は、法政大学法学部法律学科教授の須藤純正先生の研究室をご紹介します。前編では、須藤先生のゼミでの学びについて伺いました。
民法と交錯する刑法の諸問題を研究
私が主に研究している分野は、民法と交錯する刑法の諸問題です。殺人や傷害などは、「人を殺したり、傷つけたりすることは悪いこと」というように犯罪かどうかは比較的わかりやすいといえます。一方、民事・刑事が交錯している経済犯罪のような分野では、法律適用が難しいのです。たとえば、インサイダー取引や決算書類に虚偽を書いて水増しするような粉飾決算などが挙げられます。
ゼミにおいても、上記のような民法と交錯する刑法の諸問題を取り上げています。たとえば、不正融資をめぐって借り手側も共犯として問われるのかどうかといった問題や、自己の口座に誤って振り込まれた金銭を払い戻す行為は犯罪となるか、なるとすれば何罪が成立するのかといった問題を取り上げています。その他にも、学生が興味を持ちそうな最新の社会問題も幅広く扱っています。
ディベートで論理的思考力を磨く!
ゼミでは、刑法への理解を深め、事実認定(証拠に基づいて判決の基礎となる事実を認定すること)や法律適用についての直観力・応用力を身に付けてほしいと考え、ディベート形式の討論や模擬裁判を取り入れています。
ディベート形式の討論では、毎週、素材となる判例について2人の学生が説明したあと、他の学生が賛否に分かれグループ内で議論を行い、その後、討論を行います。法学部の学生でもゼミに入った当初は「Aという理由だからBだと思います」というように、自分の意見を論理的に話すのは苦手で、「なんとなくこう思いました」といった根拠のあいまいな意見を言う学生が多いのです。
ただ、だんだんと他の学生の意見を聞き、自分とは異なる視点や自分の発言の足りない部分に気付いていきます。また、3年生と4年生が混成チームで議論を進めますので、4年生が3年生にアドバイスをすることもあり、3年生も回数を重ねるごとに論理的な意見を言えるようになるのです。4年生にもなると、あえて自分の考えとは反対側に回って、議論を盛り上げようとする学生もいます。論理的思考力が高まれば、複雑な状況下でも正しい判断が下せるようになり、自分と考えの異なる人を説得しやすくなり、そのスキルは就職試験等でも役立つことでしょう。
模擬裁判でコミュニケーション力、プレゼンテーション力を鍛える
模擬裁判での証人尋問の様子
毎年、春と秋に摸擬裁判を実施するのも私のゼミの特徴です。ゼミ生が裁判官・検察官・弁護人・証人・被告人・裁判員など各役割を担い、6回程度の授業で一連の手続きを経験します。弁護・検察両者がそれぞれ論理的に主張をし、被告人の行為を一つひとつ刑法的に評価して、それが犯罪と評価できるのか否かを明らかにするのです。最終的には裁判員たちが評議をし、結論を決定します。
正解やシナリオがあるわけではないため、証人の立て方や証人への質問のしかたで、自分たちの主張を有効に展開できるかどうかも変わってきます。法律の知識だけでなく、どのような展開に持ち込めば有利になるか、柔軟な企画力や発想力も大切だといえるでしょう。
刑法は難しいのではないかというイメージを持つかたも多いかもしれませんが、我が国の裁判員制度やアメリカやイギリスの陪審員制度を見てもおわかりのように、法律の専門知識がなくても、一般のセンスで議論に参加する機会があります。また、法律の知識といった専門的知識が身に付くだけではなく、ディベートや模擬裁判を通じて、人の話をよく聞くことができるようになり、相手の意見に対して質問したり、自分の考えを述べたりすることにより、コミュニケーション力、プレゼンテーション力が鍛えられていきます。そうしたスキルを磨きたいと、私のゼミに入ってくる学生も多いようです。ディベートや議論に興味があるのであれば、ぜひオープンキャンパスなどで法学部での学びを一度体験してほしいですね。
次回は、引き続き須藤先生に法学部での学びの魅力について教えていただきます。