千葉工業大学 工学部 未来ロボティクス学科(1) サッカーW杯の優勝チームに勝てる自律型ロボットを作る![大学研究室訪問 学びの先にあるもの 第16回]

千葉工業大学 工学部 未来ロボティクス学科(1)
サッカーW杯の優勝チームに勝てる自律型ロボットを作る!



日本が転換期を迎えた今、大学もまた大きく変わりつつあります。そんな時代に、大学や学部をどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。答えを求めて、前回までさまざまな大学の研究室を訪問してきました。連載16回目は、ヒューマノイドロボットの研究に取り組む千葉工業大学工学部未来ロボティクス学科の林原靖男先生の研究室をご紹介します。前編では、先生のご研究内容について伺いました。



ロボットのサッカー世界大会で3連覇をめざして!

私の研究室では、実用的なロボット技術の研究・開発を行っています。人との親和性を重視し、柔らかな関節を持つロボットから、人と協調して働く知能ロボットまでさまざまな種類のロボットを企業などと協力しながら実用化をめざしています。特に私の研究室が得意としている分野が、リモコンではなく、自らの目で状況を判断し、動くことができるヒューマノイドの研究です。ロボットの国際大会「RoboCup」(ヒューマノイドリーグ、KIDサイズ、テクニカルチャレンジ)で2連覇(2012年、2013年)しています。




「RoboCup」では世界中のチームと対戦し、交流することができた。

「RoboCup」とは、ロボット工学と人工知能の融合、発展のために日本の研究者らによって提唱されスタートした大会です。「西暦2050年サッカーの世界チャンピオンチームに勝てる、自律型ロボットのチームを作る」という夢に向かって、世界中の研究者たちが参加しています。昨年はオランダで開催され、全世界から約400チームが参加しました。
ロボットがサッカーのワールドカップチャンピオンに勝つなんて、荒唐無稽に聞こえるかもしれません。我々が「RoboCup」に参加した2003年は、ヒューマノイドがボールを蹴っただけで大歓声が起こるほどでした。しかし、技術は年々進化し、今やロボットどうしはパスを出せるようになり、ロボットが速いシュートを蹴ったり、キーパーがゴールを守ったりするというところまできています。
過去を振り返れば、コンピュータが開発されてからロボットがチェスの世界チャンピオンに勝つまで約50年でした。このスパンで考えれば、ロボットが人間に勝つのは不可能ではないと思っています。




サッカーで人間に勝てるロボットをめざして


ゴールを目指すヒューマノイド。学生たちはコートの外で応援

こうしたロボット開発技術の進歩を支えているのが工学の力です。工学というのは、新しい発見があると、それを工学者の共通言語である式の形で表し、その式や手法を世界中に広めていく学問です。そのしくみを用いて我々の生活に必要な自動車、家電製品、医療機器をはじめ、情報機器やソフトなどが開発されています。
「RoboCup」でも、新しい技術を開発し、その技術を公開するという特徴があり、多くの時間と人手をかけて作った技術の内容を無償公開しています。ですから、昨年私たちが作ったロボットは世界中のチームが知っているため、昨年と同じでは優勝できません。ライバルに勝つロボットではなく、「どうしたら人間に勝てるのか」を考え、年々ロボットを進化させているのです。



コンテストに参加することで学生が伸びる!

私の研究室では、「RoboCup」のようなコンテストなどに代表されるように、プロジェクトベースの課題に積極的に取り組んでいます。抽象的な研究ではゴールが定まっていないため高いモチベーションを維持するのは難しいですが、目標が明確だと学生は取り組みやすいようです。また、同じ課題に向かって学部1年生から大学院2年生までが協力してチームで開発を進めることができるため、互いによい刺激を受け合うことができます。理論の深い部分は上級生が担当しますが、ロボットの組み立ての工程などものづくりの部分は伝承していかないといけない部分もありますので、学部1年生から経験してもらうようにしています。
また、コンテスト参加を通じて、世界中の仲間からも多くの刺激を受けることが、学生の成長につながっていると感じています。我々は、世界大会のチャンピオンで追われる側なので、大会に行くと学生たちはたくさん話しかけられます。たとえば、「このアルゴリズムはどうなっているの?」「どんなセンサーを使っているの?」といった具合です。そうした交流から学生たちも刺激を受け、他のチームに自ら質問に行ったりして情報交換し、技術を進化させていこうと取り組んでくれています。

次回はロボット研究で大切なこと、学生への指導で心がけている点などについて伺います。

『超入門! 付属ARMマイコンで始めるロボット製作: 障害物を避けながら前進!スクリプト言語で簡単操縦!カメラ画像処理! (トライアルシリーズ)』『超入門! 付属ARMマイコンで始めるロボット製作: 障害物を避けながら前進!スクリプト言語で簡単操縦!カメラ画像処理! (トライアルシリーズ)』
<CQ出版/千葉工業大学 林原靖男/神奈川工科大学 兵頭和人(著)/3,888円=税込>

プロフィール


林原靖男

筑波大学第3学群卒業、同大学院にて博士号取得。桐蔭横浜大学にて助手、専任講師、助教授を経て、2006年度より千葉工業大学未来ロボティクス学科助教授、現在・教授。著書に『超入門!付属ARMマイコンで始めるロボット製作』(CQ出版)など多数。

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