立正大学 文学部 社会学科(1) 「地域安全マップづくり」で子どもも学生も育つ[大学研究室訪問 学びの先にあるもの 第13回]
立正大学 文学部社会学科(1)
「地域安全マップづくり」で子どもも学生も育つ
日本が転換期を迎えた今、大学もまた大きく変わりつつあります。そんな時代に、大学や学部をどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。答えを求めて、さまざまな大学の研究室を訪問します。前回に続き、連載13回目は、「地域安全マップ」の考案者として知られる立正大学の小宮信夫教授の研究室です。専門は犯罪社会学。子どもを犯罪から守るため、どんな学びが行われているのでしょうか。
「怪しい人について行くな」という教えは非現実的
犯罪が起こりやすい場所と起こりにくい場所
(東京都「新・地域安全マップづくり作製指導マニュアル~実例、時間短縮編~」より)
「怪しい人について行ったらいけません」--子どもを犯罪から守るための、正しい教えのように聞こえます。しかし、犯罪社会学の研究により、こうした教えはあまり役に立たないことが明らかになりました。実際の犯罪者は、一見、紳士のような人も多いのです。いかにも怪しく見える人はほとんどいません。人物の外見や言葉から犯罪者と見抜くことはきわめて難しいのです。
では、どうすれば犯罪を防げるのか。「機会なければ犯罪なし」と考える「犯罪機会論」に基づく研究の結果、重要なのは「人物」ではなく「場所」だとわかりました。犯罪者が怪しまれずに子どもに近づける「入りやすい」場所や、犯行が目撃されにくい「見えにくい」場所では、犯罪が起こりやすい。だから、「入りにくく見えやすい」ように公園などを設計し、子どもたちに「危険な場所」を見抜くよう指導することで、犯罪を防げるのです。
学生たちと共に生まれ、成長し続ける「地域安全マップづくり」
小学校で「地域安全マップ」の作り方を説明する小宮先生
この知見をもとにした、犯罪を防ぐために効果的なツールが、私の考案した「地域安全マップづくり」です。子どもが実際に町を歩き、周りの景色を見ながら、危険か安全かを考えて写真を撮り、帰ってからその写真を見て、「この公園は柵がなくて入りやすいから危険」など、景色と結び付いた形で振り返りながら地図をつくります。こうした経験をすることで、危険な場所を見抜く力が付くのです。
「地域安全マップ」の例
このマップづくりはもともと、子どもではなく学生向けの実習授業として始めたものです。すると、学生たちは、私が驚くほど熱心に取り組みました。実習のあと、ご褒美として遊園地で遊ぶことにしていたのですが、「こっちのほうがおもしろい」と夢中になって議論し続け、ちっとも遊びに行こうとしませんでした。それを機に、子どもがマップづくりをするという実践を思い付いて取り組み始め、今では日本各地に広がりつつあります。
学校の先生を学生が指導する場も
私の教育方針は、学生たちの自主性を養うことです。マップづくりは、そのために効果的な場となります。学生1、2人ごとに5、6人の子どもたちのグループを受け持ち、一緒に街を歩いて、マップをつくっていきます。子どもではなく、学校の先生や高齢者などに対して、学生がマップづくりを指導することも珍しくありません。
知らない人と話をする機会が少ない最近の学生たちは、そうした場で四苦八苦します。しかし、だからこそ貴重な経験となるし、苦労を乗り越えた時、学生たちの胸には、本物の自主性や社交性が芽生えます。それが生かされるのが就職活動です。ゼミの学生たちは、「面接にも、自分は他の誰にも負けない経験を積んできたから大丈夫だと、自信を持って臨めました」とうれしそうに語り、社会へと巣立っています。
(協力:東京都/台東区立金竜小学校)
卒業生に聞きました! |
中尾 清香さん(2006年卒業、株式会社ベンチャークラフト勤務) |
次回は、大学時代に成長するために必要なことや、これからの時代に求められる大学選びの基準などを伺います。