中学受験の目的は一つではない [中学受験]

受験にはもちろん目標が必要で、それは第1志望校に合格することである。しかし、目標に向かって一生懸命になっているうちに、本来の中学入試の目的を忘れ、目標と目的を取り違えてしまうことも多いのではないか。前回のコラムでもお話したように、中学受験の目的が、「より良い教育を受けさせるために、我が子に合った教育方針と校風の学校に入学さること」ならば、「第1志望校の合格でなくとも我が子に合った教育方針と校風の学校ならば、目的は達成できるのではないか」という話をした。

一般的には、受験生・保護者は第1志望校にこだわりが強いようで、第2志望以下の学校は、まとめて「併願校」というありがたくない名称で呼ばれている。併願校が第1志望校よりも劣っているような扱いだが、本当に第1志望校のほうが併願校よりも優れているかは疑問がある。学校には良い面と同時に悪い面もあり、第1志望校と併願校とを同じ尺度で比較することは難しいので、単純に優劣をつけることはできないのだ。さらに、第1志望校に良い面が多かったとしても、それらが我が子に合っていなければ、より良い教育を受けさせることができない。つまり、その第1志望校は我が子にとっての良い学校とは言えないのだ。

ところで、中学受験の目的は「我が子により良い教育を受けさせるために、我が子に合った学校に合格させること」だけではないと思う。たとえ、第1志望校に合格できなかったとしても、得るものがあるのではないか。子どもにとって人生で初めて経験する中学受験は厳しい。厳しいからこそ、受験で得られることも大いにあると思う。
ところで、中学受験を経験した親の中にも同じように中学受験をとらえている保護者がいる。遊び盛りの小学生にやりたいことを我慢させて、その時間を中学受験に振り向けることに疑問を持つ保護者の意見は、アンケートでもたくさん寄せられる。しかし、同時に、いくつかのアンケートでは「中学受験で志望校に合格したよりも、中学受験という困難に立ち向かって、子どもが成長したことを評価したい」という意見があり、中学受験で得られたことが「我が子に合った学校に合格させること」だけではないことを物語っている。

中学受験は、子どもが人生の中で初めて出会う困難と言える。その困難に立ち向かい、打ち勝つ経験は、子どもにとって、その後の人生で大いに役立つことと思う。第1志望校に合格したかどうかは別にして、困難に立ち向かいながらゴールまで最善を尽くしたことは成功体験だ。この成功体験を得ることを目的としてもよいのではないか。
ただし、逆境に立ち向かわせるのはよいが、それに耐えられるかは、個人差もある。中学受験が、子どもによっては早すぎる挑戦となる場合もあるので、子どもに受験に耐えうる体力と精神力があるかどうかを慎重に確認すべきだ。


プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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