第4回 考える子どもは、親のかかわり方からつくられる(2)

郵便局で遭遇した母子の場面(第3回コラムを参照)では、問題点がさらにあります。
第4に問題となるのは、男児の呼びかけや訴えに対して、母が「うるさい」と「ない」で応答していることです。母と子の間で会話が成立しているとはいえません。母はマイナス感情のこもった短い言葉を、男児に投げつけているだけなのです。公共の場ですらこうなのですから、家庭ではもっとイライラした怒声が飛び交っていることでしょう。
自分の行為に対して、怒声と暴力以外の扱われ方(より良好なコミニュケートの仕方)があることを知らずに成長していく…この男児にとっては非常に不幸なことです。

子どもの判断や行為の基準は、(たとえ幼稚園や保育園、ベビーシッターなど一部の他人に接触したとしても)あくまでも親のなしたことです。幼児期から小学2年頃までは、子どもがすがるのは、親だけだからです。怒声と暴言にさらされて成長すると、制圧的な言葉や威力を受けないと行動の制御ができなくなります。穏やかで優しい他人の言葉には応じる気にならなくなるのです。
先ほどの男児が小学校に入ると、先生の話を聞こうとせず、指示に素直に従うことが困難になるでしょう。なぜなら、親が〔自分の呼びかけや訴えを聞いてくれない〕人だったからです。制圧されるまで自分勝手に行動する…これが他者と関係をもつときのこの子の基準なのです。かなり極端な話かもしれませんが、恐ろしいことです。

第3回で「母親が苦労するだろうな」と書いたのは、本格的な学習場面に入ってからです。まず落ち着いて勉強しようとしません(親が落ち着いて冷静に対処することをしてこなかったから)。次に学習に根気強く挑むことができません(親が粘り強く子どもと向き合ってこなかったから)。さらに、語いを獲得して豊かな表現力を身につけられないかもしれないし、誠意を持って他者とのコミュニケーションをとれない可能性もあります(短い言葉のやりとりで事が進むように慣らされて育ったから)。このように、子どもにとっての「当たり前の」水準が低いと、学力の向上が難しくなってしまいます。

これに対して、事を荒立てることなく落ち着いて的確に対処する親のもとでは、子どもは自分のおかれた状況を見つめ、判断する機会を得ます。客観事実の正確な把握は、論理的な思考判断の基になります。適性検査問題の分析に不可欠です。
次に、子どもの行動事実を指摘していますが、これは解決すべき課題を明示することにつながります。さらに親の価値判断をはっきり伝え、具体的な解決策を教えているのです。
そして、子どもの眼を見て真剣に話す親のもとでは、強い愛情と信頼が生まれます。親や他人に対して素直になります。
「自分で考えなさい」と言われても、子どもは何をどのように考えればよいのかわかりません。日常生活の中で、親が課題を具体的に示し、考察の方法を教え、解決策を伝える。この積み重ねが【考える子ども】を育てることになるのです。

第3回、第4回では、幼児期の親のかかわり方についてご説明してきました。幼児期の親のかかわり方が【考える子ども】を育てるのはもちろんですが、だからといって幼児期だけ親のかかわり方に気をつければいいかというとそうではありません。むしろ小学校に入り、中学年、高学年と進んでいくにしたがって、上に示した下線部や囲みの部分は、ますます重要になってきます。学習を重ね、考える機会が多くなるにつれて、課題の変化と子どもの成長に適合する親のかかわり方が求められます。親が子どもに対して課題を具体的に示し、考える方法を教えて子ども自身に考えさせる、という働きかけを積み重ねていくことによって、公立中高一貫校の受検を突破する力につながっていくのです。


プロフィール



学習塾「スクールETC」代表。思考力を問う公立中高一貫校の適性検査対策に、若泉式の読解力・記述表現力の指導法が注目を浴びる。適性検査問題分析研究の第一人者としても活躍。著書に『公立中高一貫校 合格への最短ルール 』(WAVE出版)などがある。

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