第3回 考える子どもは、親のかかわり方からつくられる(1)

第2回を受けて、親のかかわり方が適性検査対策にどのような有意性を持つか、これから述べていきます。第3回は幼児を取り上げますが、高学年のお子さまに対しても有用な対応のしかたが出てまいります。その点をお汲み取りの上、お読みください。

先日、郵便局に行ったときのことです。

番号札を取ってからいすに座って順番を待っていると、母親と5歳くらいの男児が入ってきた。ホール中央に記入する丸い台があり、その周囲を幼児はかけ回り始めた。動きながら元気な声で「ねぇ、ママーッ」と呼びかけている。何度か声を発したとき、立って書類を書いていた母親は、男児のほうを一べつすらしないで「うるさい!」と怒鳴った。幼児は怒られて立ち止まったか? いいえ、相変わらず何か言いながら動き回っていた。それから男児は、股間あたりを押さえて飛び跳ねながら「ママ、おしっこ」と言った。
ここで読者のお母さま、あなたがこの男児の母親ならどう応えますか?

その母親は「(トイレは)ないッ!」ピシッと一言。男児は、それまで押さえていた手を離して母のスカートに寄って行った。でも相変わらず母親は書類を書いていた。しばらくして男児はおしっこを忘れたかのように、またかけ回り出した。

この現場を見たときに「これは小学校に入ってから、母親が苦労するな」と感じました。これら一連の母と子の言動の何が問題になるのでしょうか。
第1に、母親は最初「うるさい!」と言ったときに、男児を見ていません。何か書きながら言っているのです。母親は身体全体で子どもの存在を感じているから見なくてもわかるのだ、と言えなくもないですが、そのような鋭敏な感覚をもっている母親は、子どもに対して上記のような振る舞いはしないものです。
第2に、男児は母親の注意を受け入れていません。当然、母親の声は自分の耳に届いたでしょうが、母親の心は受容していないのです。
第3に、母親は公共の場で、大声で怒鳴っています。この段階で大きな声を出す必要はありません。男児も声を出しながらかけ回っています。まるで他者の存在が目に入らないかのように。

この場面で、母親はいったいどのような対処をすればよかったのでしょう。
前半の部分では、例えば、「周りを見てごらん、お年寄りもいるよね、仕事をしている人たちもいる(1)、この中で動き回るのは、いけません(2)。○○(子どもの名前)はいすに座って静かに待っているのよ(3)。」と子どもの肩を押さえながら、目を見て真剣に(4) 言えばいいのです。
ここで、注意のしかたに留意してください。(1)は、まず周囲の状況に目を向けています。これは客観事実の把握になります。(2)では、子どもの行動事実の指摘をし、禁止をしています。(3)に、こうしなさいと具体的な行動基準を命じています。そしてこれらの行為を母親は、(4)で、子どもの体に触れながら、目を見つめて真剣に話しているのです。

親の子どもに対する対処の良し悪しが、学力の向上や適性検査受検にどのような影響を与えるのか? これについては次回で説明することにします。


プロフィール



学習塾「スクールETC」代表。思考力を問う公立中高一貫校の適性検査対策に、若泉式の読解力・記述表現力の指導法が注目を浴びる。適性検査問題分析研究の第一人者としても活躍。著書に『公立中高一貫校 合格への最短ルール 』(WAVE出版)などがある。

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