第16回 読解力がないから算数の文章題が解けないのか(1)
あるお母さまから先日、次のようなご相談を受けました。
「うちの子どもは国語の読解力がないので、算数の文章題が解けないのです。問題に数多くあたって慣れるしか手はないのでしょうか?」
この子どもはけっこうまじめに学習する子で、母親の指示を守って漢字や語句の練習はしっかり行っており、国語の点数は決して悪いわけではありません。計算練習も毎日行っていますから、あとは文章題さえなんとかなればと、母親の気持ちは焦るばかりです。
このように、算数の文章題が解けなくて困っているお母さまはけっこう多くいらっしゃいます。
さて、このご相談に私はなんと答えているでしょうか。
「お母さま、今、『国語の読解力がない』から『算数の文章題が解けない』とおっしゃいましたね。実は、国語の読解力のある・なしと算数文章題が解ける・解けないは、あまり相関関係がありません。正確には、国語の力が関係するところもありますが、いわゆる国語読解力の高い子ども(国語のテストで高い得点をとる子ども)が、算数の文章題が解けるようになるということは一概にはいえません。国語読解力とは異なる、算数文章題を読み取る力が必要なのです。」
ここまで言うと、お母さまは「エッ、違うのですか?」と驚かれます。
以前、作家のかたが、「数学の文章題が解けないのは、国語読解力がないからだ」と言ったのはうそではありませんが、親に誤解を与える表現です。国語読解力は、文章のあらすじや大意をつかみ、細部の心情の変化や事柄の関係を把握して、主題や要旨をまとめる力ととらえるのが一般的です。そして、そのための語句や文法の知識が必要になります。しかし、国語読解力の高い子どもが、算数文章題を国語的に正確に把握したとしても、算数の問題自体を解くことはできません。なぜなら、算数特有の読み取る力が必要だからです。
算数の文章題は、言葉の重なりや無駄を省き、コンパクトにまとめられた文章になっています。そこでまず、文章題を読み取るときには、主語・述語、修飾語・被修飾語の関係や、接続語の使われ方、指示語の内容把握などを厳密に読み取って分析しなければなりません。ときに小学生が読み取る場面では、文章題の中で使用されている語句や用語の意味がわからないと、そこで立ち止まりそれ以上読み進めない子どももいます。たとえば「おけ」「ひしゃく」などの言葉が文章題に出てきた場合、言葉の意味やイメージがわからないから問題そのものが解けない子どもが小学生には少なからず存在します。このような場合の知識や技能は、確かに「国語読解力」にかかわる事柄といえるでしょう。
それでは、算数特有の読み取りとはどのような読み取り方か、例を挙げて説明しましょう。次の問題を見てください。
小学校2年生の問題【問題1】
太郎くんのクラスの人数は33人です。背の低い順に並ぶと太郎くんは前から8番目になり、花子さんは太郎くんから数えて15番目にいます。花子さんはいちばん後ろにいる人から数えて何番目にいますか。
答えは、10番目、11番目、12番目のどれかです。お子さまと考えてみてください。そして、どのように考えて答えを出したのか、他の人にわかるように説明させてみましょう。
この問題の解答と算数文章題を読み取る力については次回に説明します。