第18回 読解力がないから算数の文章題が解けないのか(3)

第17回で示したように「算数の文章題を解く」読解力は、国語の字句の意味や文法を理解して「文章が読める」「情景を想像し、大意をつかみ、主題や要旨を把握する」という国語読解力とは異なるのです。小説を「すらすらと読んであらすじをつかむ」読解力ではないのです。
算数や数学の文章題は、飾る言葉やくり返しを省き、あいまいな表現を避けて必要最小限の簡潔な記述がなされています。そこで「算数文章題の読解力」で求められる第一の力は、「文章を分析的に読む力」になります。国語のジャンルで出てくるのは、論説文や解説文などの説明的な文章を読み取る場面です。そして書かれた内容や場面、主語と述語、言葉の係り受け、接続語や指示語などに注意して読み進める必要があります。算数文章題では事実と条件を丁寧につかみとり、比較し分別しながら解き進めていくような態度と技術(※細切れ読み)が基本になります。
算数の文章題では、この分析的な文章の読み取りをしながら、同時に第二の力「数学的・論理的に読む力」すなわち「整理して筋道を立てて粘り強く考えていく力」が求められます。数字のもつ意味や用語の概念、数式の示すもろもろの関係性、図形の性質に関する知識と直感力などなど、算数・数学に特有の抽象的な論理思考が問われます。定義や公式の暗記も必要ですし、洞察力、判断力、素直にまねをする力、疑いをもって追究する力、ともかくわかることを書き出して根気強く試行錯誤をくり返す馬力なども必要です。


Benesse教育研究開発センターの情報誌ライブラリ『 VIEW21[中学版]』2007年1月号特集「『学びに向かう』生徒をどう育てるか?」によると、教師たちの座談会の中で、中学生の気質の変化を取り上げ、「未知の問題や難しい問題になると『習っていないからわからない』と投げ出してしまい、考えようとしない生徒が増加している」とあります。
このとき、子どもの心にどのような心象が生まれているのでしょうか?
複雑な問題文を見ると『読むのがめんどう』『何が書いてあるのかわからない』、そして親に言う言葉は『こんなこと習っていない』『忘れた』、しまいには、『うるせー』となります。
上記座談会の対象は中学生についてでしたが、これは小学生にも当てはまる気質の変化です。


文章題がわからない小学生が多くなるのは、たいてい小学5年生からです。
5年生の算数カリキュラムは普通、小数のかけ算・わり算から入ります。小数のわり算は、計算のしかただけでも【(1)わり切れるまで求める(2)小数第○位まで求め、あまりも出す(3)四捨五入して小数第○位まで求める(4)四捨五入して上から2けたのがい数で求める】などバラエティーに富むうえに、文章題では、まだ本格的に学習していない「割合」や「単位量あたりの大きさ」が登場します。算数で伸びていく子どもと低迷しだす子どもの分岐点は「割合」や「単位量あたりの大きさ」です。このあたりから文章題をあきらめる子どもが出てきます。それは3つの数量の関係をとらえて式を立て、解決しなければならなくなるからです。


次に出す問題は、資料の読み取りに関する計算問題として【適性検査】でも取り上げられうる【算数】バージョンの問題です。子どもたちは、この問題の何が『わからない』のでしょうか? 解答の道筋は次回ご紹介します。


【問題2】小学5年生
18m² の花だんAと、15m² の花だんBがあります。花だんAには2.7kg、花だんBには1.8kgの肥料をまきました。花だんAと花だんBの肥料のまく割合を同じにするには、どちらの花だんに何kgの肥料をまけばよいですか。


注:「単位量あたりの大きさ」は、2008年度までは6年生配当単元でしたが、2009年度から新学習指導要領の移行措置により5年生配当単元になっています。

※ 細切れ読みに関しては、「公立中高一貫校 合格への最短ルール」(WAVE出版 若泉敏 著)を参照してください。


プロフィール



学習塾「スクールETC」代表。思考力を問う公立中高一貫校の適性検査対策に、若泉式の読解力・記述表現力の指導法が注目を浴びる。適性検査問題分析研究の第一人者としても活躍。著書に『公立中高一貫校 合格への最短ルール 』(WAVE出版)などがある。

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