【回答:若泉 敏】私立併願<その1>

「中学受検は親子の受検」とも言われ、保護者のかたの役割はとても大きいもの。受検準備が進むにつれて、心配事や気がかりもいろいろ出てくるでしょう。よくある相談事例について、専門家の先生がたや、合格家庭の先輩保護者のアドバイスを集めました。

東京都立中高一貫校志望。併願の私立対策とあわせて、どのような取り組みが必要?

公立中高一貫校と私立中学の両方をめざすための勉強法を教えてください

国・私・公立中高一貫校を現在検討中。学年ごとにすべきことは?

東京都立中高一貫校志望。併願の私立対策とあわせて、どのような取り組みが必要?

中学受験は私立しか頭においていませんでしたが、最近都立の中高一貫校が気になりだし、説明会に行ってみたらとても気に入りました。しかし、都立は都立との併願はできず、1校しか受検できないため、私立も併願することになると思います。
私立と公立では傾向が異なるだけに、今後どのような対策、勉強をしていけばよいのかわかりません。どっちつかずになってしまうのではないかという不安もあります。まだ模索を始めた段階ですが、今通っている私立対策の塾との両立をどのようにすればよいか、アドバイスをお願いします。
私立と都立の併願の目安は、三大模試で偏差値55以上をキープしているかどうか。いずれも論理的思考力を身につけることは必須

都立(区立を含む)中高一貫校が、平成22年度には11校すべて開校するのに伴い、これまで私立中学受験だけを考えていた人々が公立中高一貫校に関心を示すようになりました。平成23年春、都立最初の公立中高一貫校である白鴎高等学校から、初めての卒業生が出ます。その大学進学結果によっては、さらに注目が集まりそうです。
しかし、公立中高一貫校の選抜では「学力試験は行わない」と定められていますから、適性検査対策と私立受験対策は「非学力試験」と「従来の学力試験」の二兎(にと)を追う格好になり、公立と私立の併願は頭の痛いことになるかもしれません。

これまでの「受検」と「受験」両方の指導経験から目安としていえるのは、私国立中学受験偏差値(いわゆる三大模試)で55以上を安定的にキープしている人は、公立受検をそれほど気にしないで私立型の受験勉強を継続すべきです。「受検」と「受験」いずれにおいても共通して求められる力は「論理的思考力」であり、中学高校の教師たちの作問問題だからです。これらは私立中学受験塾の勉強の中で当然つけていく力ですし、慣れさせていくものです。
ただし、受験偏差値が55を超えていても「記述された文章や資料に基づいて自分の頭で考えることのできない人」や「考える力はあっても記述表現が苦手で時間のかかる人」は、都立受検は避けたほうがよいでしょう。
また、私立型受験勉強を4年生以前から始めて5年生末の受験偏差値が55未満の人は、一般的に両立は難しいと言わざるを得ません。私立か公立のどちらかを選択・決定して対策を講じたほうが有効でしょう。

なお、都立(区立)だからといって11校の適性検査問題の出題傾向や形式は同じではありません。志望校の過去問をよく分析し、お子さまの適性と能力に応じて対策を講じるべきでしょう。

※2009年12月現在の情報に基づいた回答です。

公立中高一貫校と私立中学の両方をめざすための勉強法を教えてください

公立中高一貫校受検と、私立中学受験の両方を考えていますが、今後どのような勉強方法がいいでしょうか。
1歳と2歳の弟もおり、親がつきっきりで勉強を見ることが難しい現状です。一緒に勉強の計画を立てて、今はそのとおりにがんばっていますが、本人任せになりがちなのが心配です。
公立と私立どちらに重点を置くのかで、勉強方法は変わる。公立中高一貫校なら、ベネッセの教材や対策問題集を利用して準備を

公立中高一貫校受検と私立中学受験の両方を考えていても、どちらに重点を置くのかによって勉強方法が変わります。また、どの私立中学をめざすかによっても対策が変わります。質問者の実情がいま一つ明確でないので、回答が難しいのですが、以下は、公立中高一貫校受検に重点を置く場合の一般的な対応について説明します。
「適性検査らしい問題」を課している、東京都立や神奈川県立などの公立中高一貫校を受検する場合は、学校の生活と勉強を中心に志望校の傾向に沿った検査対策を考えます。この場合、ベネッセの保護者向け冊子の特集号に、参考になる記事がたくさん掲載されていますから、親がよく読んでお子さんに生かしてください。また、拙著『公立中高一貫校・合格への最短ルール~適性検査で問われる「これからの学力」 』(WAVE出版)を読んで対策を考えることも効果があります。塾に通わないで、ベネッセの教材「作文・表現力講座」や「公立中高一貫校受検対策コース」を使用し、拙著を活用して志望校と同じ傾向の過去問に取り組み、小石川や桜修館などに合格した人の報告が寄せられています。最近出された問題集としては『公立中高一貫校をめざす適性検査対策問題集 』(文理)が家庭で取り組みやすく、推奨できます。

なお、小さいお子さんがおられるようなので、そちらに手がとられることでしょう。つきっきりで勉強を見る必要はありませんが、勉強の計画を立てることと、本人がどこまで学習を進めたのかの確認は必ず行いましょう。また、勉強の内容について教えるよりも、勉強の進め方や考え方をお子さんと一緒に探っていくことが必要です。自然観察会や博物館巡り、その他学校の外にある学習課題を見つけることも、親が判断することです。

国・私・公立中高一貫校を現在検討中。学年ごとにすべきことは?

現在3年生です。公立中高一貫の都立武蔵、学芸大附属、早稲田実業など、東京都の武蔵野地区の共学の中学を受験させようと思っています。
しかし、夜遅くまで塾に通わせることに賛成できないので、少なくとも4年生までは家庭で受験準備となる勉強をさせようと思います。具体的にどういう問題集に取り組めばよいでしょうか。また、4年生のうちにここまで、5年生ではここまでというように学習を終わらせておくべきカリキュラムのプランをご提案していただけませんでしょうか。
難関私立型と、公立中高一貫校のような適性検査型では、勉強のやり方が異なる。どちらかに目標を定めて対応を考えることが大事

公立中高一貫校の都立武蔵や学芸大附属国際中等教育学校のような適性検査による入学者選抜と、早稲田実業など私立共学校や学芸大附属小金井のような難関私立型の入試では、勉強のやり方が違ってきます。
そもそも「夜遅くまで塾に通わせることに賛成できない」ご姿勢の方は、少なくとも中学受験の段階では、早稲田実業など難関私立・国立は早々にあきらめたほうがよいでしょう。むしろ早大学院や慶應各校を、高校受験で狙うほうが入りやすく賢明です。
公立中高一貫校を狙うか、それとも私立国立難関校を狙うか、どちらかに軸足を定めたうえで、何をどこまでやるかプランを立てるべきです。
どちらもつぶしが利くように対処したいと考えるほど受検&受験は甘くありません。いずれにしても保護者とお子さまの「生きる力」が問題です。その力に応じて学校選択や学習のプランが提示できるものです。

以上を踏まえたうえで、あえて一般論を提示すれば、中学受験の場合は、教科書レベルの勉強は1年先の内容を進めつつ、子どもの能力に応じて受験レベルの基礎基本を教え込む。
公立中高一貫校受検の場合は、学年相当の学習内容を進めつつ、課題の深度を深めたり、関連づけて広がりを探ったりする。このように対象によって勉強の重点の置きどころが違うのです。

プロフィール



学習塾「スクールETC」代表。思考力を問う公立中高一貫校の適性検査対策に、若泉式の読解力・記述表現力の指導法が注目を浴びる。適性検査問題分析研究の第一人者としても活躍。著書に『公立中高一貫校 合格への最短ルール 』(WAVE出版)などがある。

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