【回答:若泉 敏】私立併願<その2>
「中学受検は親子の受検」とも言われ、保護者のかたの役割はとても大きいもの。受検準備が進むにつれて、心配事や気がかりもいろいろ出てくるでしょう。よくある相談事例について、専門家の先生がたや、合格家庭の先輩保護者のアドバイスを集めました。
突然医者になりたいと…。レベルの高い学校に入るには?
公立中高一貫校だけに絞ったほうがよいですか?
東京都立南多摩中等教育学校の受検対策で併願できる私立は?
突然医者になりたいと…。レベルの高い学校に入るには?
Q | 6年生の夏休み明けになって、突然受験すると言いだしました。 将来医者になりたいという夢をかなえるために地元の中学ではなく、少しでも勉強のレベルの高い学校に行きたいということです。今からでも間に合いますでしょうか? 面談した塾の先生には洛星は99%無理と言われ、とりあえず公立中高一貫校の京都市立西京高等学校附属中をめざして勉強していますが、医大実績京都トップ校の洛星にもチャレンジしてみるつもりです。どういった勉強法が有効でしょうか? |
A | 今から洛星にチャレンジしても合格の可能性は低い。それより、理系に強い公立中高一貫校をめざしてみては 一般公立中学よりも私立中学に進学したほうがカリキュラムの進行上、医学部受験には有利であることは言をまちません。しかし子どもの現実的な能力を見定めないで、医学部進学実積が高い中学に進学したとして、道が開けるものでもありません。 洛星に入学したとしても、医学部進学者は学年で20%を切っています。そのうち医者の子弟がかなりの部分を占めていると思われ、学校の指導と関係なく合格しているのかもしれません。洛星から東大に進学した講師が私の塾にいましたが、塾や予備校で受験学力向上の目を開かれたと言っていました。 6年生の夏休み明けから受験準備をするのでは、難しいのではないでしょうか。むしろ「とりあえず」なんて軽い意志ではなく、家族一丸となって、公立中高一貫校をめざした勉強に集中するべきでしょう。 その際、医学部志望ですから、市立西京中よりも理数系に力を入れているSSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定の府立洛北高等学校附属中をめざしたほうが、可能性は高くなるのではないでしょうか。 京都の公立中高一貫校は大学入試に向けて先取り学習も積極的に取り入れていると聞きます。私立に進学する費用をプールしておいて、医学部受験のために使用するのも利口な選択となり得るでしょう。 |
公立中高一貫校だけに絞ったほうがよいですか?
Q | 私立中学を受験するつもりで塾に通い始めましたが、自宅から通える範囲に神奈川県立の中高一貫校が新設されることになりました。夫の卒業した学校が母体だったこともあり、5年生の息子は受検に積極的です。公立中高一貫校を第一志望とする場合でも、私立中学の受験と並行して勉強を続けるほうがよいでしょうか? または、公立中高一貫校だけに絞った受検のほうがよいでしょうか? アドバイスをお願いします。 |
A | 一般的には、どちらかに早めに決めて生活の中心をおいたほうがいいが、塾の勉強が公立受検にも役に立つこともある 首都圏では、平成21年度に神奈川県立中等教育学校が2校開校します。先行する埼玉、東京、千葉の入学者決定方法を比較検討したうえで神奈川県独自の方針を打ち出しています。入学者決定にかかる基本的な方向として「透明かつ公正で公平な選考」「児童の負担や小学校生活への影響を抑える」があり、注目に値するものです。また他の都県には見られない「グループ活動」を評価の対象にしている点も新機軸です。 公立中高一貫校でも、都道府県の教育委員会のねらいや姿勢は異なっており、実施する適性検査等の出題傾向によって、また地域特性によって、対策のしかたや重点の置きどころは変わってくるのです。 適性検査等で測ろうとする児童の力は私立中学受験で試される「学力」とは異なるので、一般的には、どちらかに早めに決めて生活の中心をおいたほうが有効でしょう。ただ相談者の場合は、私立中学受験をするつもりで通塾を始めたことから、公立を第一志望としたとしても、受験勉強をやめる必要はないと考えます。塾の勉強が公立受検にも役に立つことがあるからです。 まだ5年生ですから、初年度の受検状況を把握したうえで、方向を決定しても遅くはないでしょう。現段階では公立中高一貫校向けの勉強も含めて、対策をバランスよく立てることがいちばん望ましいといえます。 ※2008年9月現在の情報に基づいた回答です。 |
東京都立南多摩中等教育学校の受検対策で併願できる私立は?
Q | 東京都立南多摩中等教育学校をめざして受検勉強を始めた娘の父です。現在5年生で、遅まきながらの受検対策ですが、学校へ通う時間以外は勉強とピアノのみで取り組んでいます。今まで大好きだった週2日のピアノと週1日の英語も、じきにお休みをする手はずも整えました。子どもも、このような1点集中に同意し、必死に取り組む姿を見せていますので、受検校1校のみでは報われなかったときのことを考えると心配です。 公立中等教育学校の受検対策で、応用的に受験できる私立はありますでしょうか。 なお、今は対策として、子ども新聞を読んでの作文を週5日と、塾の個別コースで公立一貫校向け5年生問題集の1年間分を、6年生になるまでの数か月間に短期集中でこなす、ということをしています。 |
A | 実際に学校を訪ねて併願校を決定し、過去問の傾向に沿って対策を講じればうまくいく可能性がある お子さまの受検対策のご様子をたいへん詳しく述べられたうえでのご質問ですから、明確な返答をさしあげたいのですが、私立併願校を判断するには不明点があります。 まず、第一に「塾」とはいかなる名称と性格をもつ塾なのか? 「個別コース」とは、集団個別指導なのか、1対1の個人指導なのか? 塾のスタンスと個別コースの形態によっていかなることができるかが異なります。 次に「公立一貫校向け5年生問題集」とは、どのような問題集なのか? 本当に公立一貫校対策になるのかわからないと、判断のしようがございません。さらに「短期集中でこなす」といっても、1冊を仕上げることが目的なのか、未消化や消化不良分野を発見して克服するまで意図しているのか? 私立受験可能な「意欲と決意」はあっても、その塾のその指導ではたして私立併願可能な受験学力を養成してくれるのか、不明なわけです。 「受検校1校のみでは報われない」ので「公立中等教育学校の受検対策で応用的に受験できる私立」を求める、そのお気持ちはわかりますが、私立中学受験はたとえ受験偏差値が低くても学校教科書レベルの問題は皆無であることを考えると、「二兎を追う者は一兎をも得ず」の結果を招くことになる、とご注意申し上げておきます。 実際に学校を訪ね歩き、学校関係者から生の話を聞き、これぞと思われる私立学校を見つけたなら、ある時期からその学校の過去問の傾向に沿った勉強も集中して行う。そのような対策を講ずれば、意図される私立併願もうまくいく可能性があります。 なお、南多摩中等教育学校の平成22年度の適性検査問題は、サンプル問題とは格段に違う優れた出来栄えであり、本校の特色とその教育にかなう児童を選抜するに値する適性検査らしい問題だったことをつけ加えておきます。 |