中学受験国語には専門知識が必要?[中学受験]

中学受験に出題される問題は、近年ますますその難度を増している。問題文が高校入試や大学入試ではないか、と思えるようなものも多い。
たとえば物語文では、主人公が小学生だけではなく、中学生や高校生の場合もある。当然彼らの気持ちを理解しなければならないし、「恋」や「愛」といった感情も出てくる。これらは小学生、特に男の子には大変わかりづらいだろう。実際、「うちの子は子どもっぽいほうなので……」と言われて、困惑されている保護者も多い。
説明的文章(説明文や論説文)もかなり難しい。実際、上位高校の入試問題とほぼ同じ箇所が中学受験で出題されているのを、何度も見る。また文章の内容も、「言語論」や「コミュニケーション」、「文芸論」など、普通の小学生はまず読書では読まないような文章が多く出題される。「岩波ジュニア新書」(中学生~高校生対象の新書)からの出典ならまだかわいいほうで、完全に大人を対象にした新書からの出典もある。その難しさを実感するには、お子さまの志望校の過去問に目を通されると良い。中堅以上の学校であれば、その難しさに驚かれる場合が多いと思う。
そのレベルの文章に慣れるには、先ほど紹介した「岩波ジュニア新書」を読むのも良いが、これらの本を楽しく読める小学生は、かなり尊敬に値する。私の知る限りでは、そのような本を愛読しなくても、御三家レベルに合格することはできる。第一、6年生ともなれば、国語力を強化するために読書をしている時間はない。それよりも入試問題演習を行った方が効率的であろう。

以前は頻出作家の作品を読むことで、試験を有利にしようという考え方もあった。今でも書店によっては、「中学受験で頻出の作家・作品一覧」というコーナーがあると思う。しかし結論から言ってしまうと、この頻出作家の作品を読むという方法も、かなり効果が薄くなった。少なくとも首都圏においては、年々頻出作家・作品と言えるものが激減している。数字を拾ってみると、3校以上に出題された作家(一昨年8名→昨年2名→今年4名)、2校以上に出題された作家(一昨年20名→昨年18名→今年10名)と大変な勢いで減少している。
ほんの数年前は、確かに頻出作家・または作品が明確に存在した。たとえば2005(平成17)年をみると、あさのあつこ氏の『バッテリー』が3校で、池田晶子氏の『14歳からの哲学』は4校で、伊集院静氏の『機関車先生』は3校、『ぼくのボールが君に届けば』は4校で出題された。伊集院静氏は他の作品も1校で出題されているので、その年は合計8校で出題された計算になる。この時調査したのは98校だったから、実に約10校に1校で伊集院氏の作品が出題されたのである。
ここまで出れば、さすがに伊集院氏の作品を読みたくなるだろう。しかし今年を見ると、2校で同じ作品が出ているのがせいぜいである。これでは頻出作品として来年に向けて読もうとすれば、かなり多くの作品を読む必要が出てくるであろうし、効果は前に比べてかなり薄いと考える。

それにしても入試問題に出てくる問題は、小学生には難しい。我々大人が専門知識をほとんど持たないまま、コンピュータに関する本を読むのに似ている。対策としては、頻出のテーマごとに専門的な知識(といっても一般新聞レベル)をまとめ、理解しておくと良い。しかも都合の良いことに、中学入試に出題されるテーマはかなり絞れるのである。たとえば「友人(友情)」「父母子」「言語・コミュニケーション」というテーマは、一昨年と同様、今年もベスト3だった。なんと35%以上の問題のテーマが、これら三つから出題されている。またテーマをベスト10まで広げれば、全体の70%以上の問題を網羅できる。ここまでテーマが絞れれば、そのテーマに関して知識を持っている生徒と持っていない生徒では、非常に大きな差が付いてしまう。
ところで、そんな各テーマの知識を、ダイジェスト的にまとめたものが拙著『必ず出てくる国語のテーマ』(ダイヤモンド社)である。興味のあるかたはぜひ目を通していただきたい。使い方としてはお子さまが読むのも良いし、あるいは保護者が読んで、その内容をお子さまに教えていただければ良いと思う。

受験のための読解力以上、3回にわたって「読書と受験」について述べてきた。結論としては小学4年生くらいまでは、楽しい読書を大いにしていただきたい。そうすることで読解の基礎力を構築することが可能であろう。そして5年生くらいになったら楽しむだけの読書ではなく、「考える読書」を習慣付けたい。さらに6年生の段階では、読書は学習というのではなく、気分転換と考えるべきであろう。
そして「受験レベルの国語力」を構築するには入試問題演習のほうが有効であり、理論的な根拠に基づきながら、間違えた箇所を徹底的に復習することが重要である。また頻出のテーマに注目して、それに関する知識を事前に理解することは、非常に有効である。さらに、学校によっては特別な頻出テーマがあることも、注目すべきだと考える。

プロフィール


小泉浩明

桐朋中学・高校、慶応大学卒。米国にてMBA取得後、予備校や塾を開校。現在は平山入試研究所を設立、教材開発など教務研究に専念。著作に「まとめ これだけ!国語(森上教育研究所スキル研究会)」などがある。

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