中学受験は「親の受験」の真実
保護者の関わりが重要と考えるだけに、口出しも多くなる
では次に、教育に関する保護者の意識や、子どもへの関わり方について見てきます。
【図4 教育に関する保護者の意識】
注1:中学受験をするかどうかの質問に、「はい」と回答した保護者のみ
注2:「私立中学校・国立大学附属中学校」は受験者のうち、「私立中学校」「国立大学附属中学校」を第1志望に選択した人、「公立中高一貫校」は同じく「公立中高一貫校」を第1志望に選択した人を示す(保護者の回答で分類)
【図5 お子さまの教育について、次のようなことはどれくらいあてはまりますか】
注1:「とてもそう」+「わりとそう」の合計
注2:<<は10ポイント以上、< > は5ポイント以上差があるもの
●「中学受験は親がしっかりしないと勝てない!」を認める保護者6~7割
特に「私立中学校」第1志望者の保護者は親の関わりの重要性を認めています。一流大学への進学を望む傾向もあり、親子で高い目標に向かっていく感じが伝わってきます。
●子どもへの関わり方全般=「子どもに任せたいけど、口出しせずにいられない……」
受験させる保護者は受験させない保護者と比べて「子どもにいいと思う体験を積極的にさせている」「子どものやることに何でも口出しをしてしまう」といった項目で上回り、「子どものことはできるだけ子ども自身に任せている」では下回っています。
「口出ししないように」と思いつつも、一方では「中学受験は親がしっかりしないと」という思いもあり、葛藤しながらも積極的に関わらざるをえないというのが実情なのかもしれません。
志望校によって、親子の関わりや葛藤にも強弱が
●葛藤の強さは……首都圏>地方、私立中学校>公立中高一貫校、難関校>難関校以外
中学受験をめぐって親子関係がぎくしゃくしたという声が多く聞かれます。ただし、志望校の種類、難易度、地域によって葛藤の表れ方に多少違いも見受けられます。
母親へのインタビューからは、地方より首都圏のほうが、公立中高一貫校希望より私立中学校のほうが、難関校以外よりも難関校のほうが、より葛藤を感じている姿がうかがえます。特に首都圏で行った私立中学校・難関グループの調査では、涙を浮かべながら話す母親の姿が印象的でした。
データから見ても、特に「私立中学校」第1志望の子どもは「日々の学校外の学習時間」が非常に長く、遊びや趣味の時間を削ってストレスが多い生活をしています。そして、その保護者は学歴志向が強く、受験への親の関わりを重視する傾向があります。これらのことから、志望校の種類によって、受験(受検)の大変さが異なり、親の関わりや葛藤の度合にも強弱があると考えられます。
とはいえ、志望校に関わらず、中学受験を選択した保護者が葛藤するのは同じ。以下に、母親インタビューでの声を紹介します。
[首都圏・私立・難関]
- 悩みは一言で語りつくせない。やる気がないならやめなさいとばかり言っていた。自分もどうしても受験とは思わなかったので、勉強しないならやめて良いよと1月まで言い続けた。子どもには、言ってはいけない一言をいっぱい言った。(首都圏・私立中学校・難関)
- 全然覚えていない。なるべく忘れようと思った。カッと来ると、言ってしまうほうだから。カッときて言うのは仕方ないよねと子どもに言っていた。今まで子どもをなじるようなことはしてこなかったのに。具体的に成績が急降下した時に、本人も辛いのに、そこに輪をかけて言ってしまうところがあった。子どもは傷ついたと思うが、そういう大人の心理もわかってよという感じだった。子どもはわかってくれたと思う。いじめたくてということではないからと。(首都圏・私立中学校・難関)
[首都圏・私立・難関以外]
- 宿題を無理矢理やらせて、親子関係を気まずくさせたなと思う。塾の宿題さえなければ、普通に楽しくしゃべっているのに。(首都圏・私立中学校・難関以外)
- よそ様に聞こえるぐらい、お互い大声になったりした。半泣きどころじゃなかった。(首都圏・私立中学校・難関以外)
[首都圏・公立中高一貫]
- 受検に対して勉強で悩んでいるというより、友達と離れるという寂しさのほうが、6年生になると強かった。そういうところを乗り越えるのに、家族でフォローした。(首都圏・公立中高一貫校)
- 夫が子どもにいろいろやらせようとしているけれど、本人はそうじゃないということで、親子ゲンカが増えてしまった。親子は難しい。自分がこれだけやらせたら良いという思いが、子どもには通じないというのがわかって、(途中で)引いてしまった。塾に行っているからということで、妥協点を見い出した。(首都圏・公立中高一貫校)
[地方・国立大附属]
- 本人はやっていたと思うが、自分たちは子どもが思っているより高いところに目標を設定しているから、よその人は遅くまで塾もあるし、うちは短い時間で大丈夫なのか、親の不安を子どもにぶつけてしまった。今振り返るとそれが反省点。(地方・国立大学附属中学校)
[地方・私立]
- 勉強は先でもできるが、小学6年生で自分を否定される必要はないということをわたしも父親も思って、本人が壊れないように気を付けていた。泣いている日もあり、6年生の間は受験の体験談で読むような大変な思いを十分にして過ごしていた。受験の前後は本当に疲れ、しんどかった。自分はやせてしまった。(地方・私立中学校)
中学受験する子どもに対する母親の関わり、父親の関わり
最後に、中学受験を選択した母親・父親の具体的な関わりをご紹介します。母親はさまざまな面において子どもの受験(受検)に関わり、一方、父親は主に情報収集や母親や子どもの相談役というふうに、母親と父親で役割分担をしていると言えます。
<母親の関わり>
母親インタビューの声から、母親の関わりは以下の5つに大きく分類できます。
- 1)勉強面のフォロー
- 教科内容を教えるより、問題のコピー、宿題チェック、ファイリング、学習のペースメークといった周辺的な役割。
- 2)情報収集
- 学校説明会に参加する。また子どもと一緒に志望校の文化祭に参加する。
- 3)学習塾の送り迎え
- 4)体の健康管理
- 塾に持っていくお弁当作り。栄養バランスや睡眠時間、体力づくりなどへの気配り。風邪やインフルエンザ予防。
- 5)心(メンタル面)の健康管理
- 気分転換をさせる工夫。プレッシャーを与えないように余計な口出しをしないことを心がける。
<父親の関わり方>
父親は受験(受検)に母親ほど関心がない、あるいは関心があっても忙しくて関われないのが実情。それでも、母親インタビューの声から父親の関わりを集めて分類すると以下のようになります。
- 1)勉強面のフォロー
- 教科内容を教える。パソコンで進行チェック表を作ったり、インターネットで資料を探したりする。
- 2)母親の相談相手・子どもの話の聞き役
- 志望校を決める際、母親の相談相手になる。子どもの悩みを聞く。癒し係。
- 3)受験の付き添い
●志望校の種類によって、母親の関わり方に違いがある
健康面でのサポートについては、志望校の種類と関係なく、ほとんどの母親が行っています。しかし、前回もお伝えしたとおり、勉強面のフォローについては、志望校によって違いがあり、宿題の○つけ、ファイリング、勉強のペースメーカーなどをする母親が多いのは私立中学校を受験する家庭。公立中高一貫校を受検する家庭では、子どもに日常生活の体験をさせるといった関わり方が多くなっています。
●父親の関わりが最も多く見られるのは、難関・私立中学校を受験する家庭
難関・私立中学校を受験する家庭では、父親も母親と一緒に中学校を見に行ったり、夜中にパソコンでリストを作成したり、子どもの中学受験に比較的に熱心に関わっているようです。
母親インタビューからは、受験勉強で友達と遊べないことに悩んでいる子どもを家族全員でフォローしているといった声や、父親が勉強を教え、お姉さんも一緒に問題を作り、母親が隣でがんばれと応援し、家族一丸となってがんばったという声も多く聞かれました。家族ぐるみで中学受験に高い関心を示している様子がうかがえます。
(まとめ)
中学受験させる保護者は学歴・競争志向があることから、少なからず子どもはその教育観に引きずられ受験を決意しているか、または親のすすめで始まった塾通いから、いつのまにか受験の流れにのって、やめられなくなっている場合も多いようです。そして、いざ受験勉強となると、まだ小学生ですから心身のサポートに加え、受験勉強の進行管理、モチベーションを維持することも親の役目となってきます。
つまり、中学受験への流れを作ったのは親で、受験環境を整えるのも親。中学受験が「親の受験」と呼ばれるのも無理はないようです。
最後に……、合格にたどりついた母親の多くは、受験を振り返って、「子どもに自信がついた」「家族のきずなが強くなった」と語っています。「中学受験は家族で乗り越える」、そう覚悟して役割分担し、お互いを認め合ったりフォローしあったりすることで、より良い親子関係につなげているようです。このことも、中学受験をとおして試されることの一つと言えそうですね。