筑波大学 芸術専門学群 構成専攻(2) 優れたデザインに必要なのは教養[大学研究室訪問]

日本が転換期を迎えた今、大学や学部でどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。筑波大学芸術専門学群の山本早里准教授の研究室をご紹介します。前回は、山本先生の研究内容について伺いましたが、今回はゼミでの学びやデザインを志すかたへのメッセージをお聞きしました。



■作品づくりだけでなく理論も学ぶ

「色彩構成演習」の授業の様子

筑波大学芸術専門学群には、芸術学専攻、美術専攻、構成専攻、デザイン専攻の4つの専攻があります。私の所属する構成専攻では、総合造形、クラフト、構成、ビジュアルデザインの専門領域を扱っています。広告のようなグラフィックデザインに取り組む学生もいれば、ものづくりをするクラフトに取り組む学生もいるなど、さまざまな分野の学びが可能です。
構成専攻の学生は必修で構成特別演習(ゼミ)に参加します。私は2年生向けに環境色彩について学ぶ「色彩構成演習」という授業を担当しているので、環境色彩に興味のある学生が私の研究室に入室してくれているようです。

研究室では、1年間かけて自分でテーマを決めた作品づくりに取り組みます。ただ、作品づくりだけでなく、制作の基礎となる理論を学んでもらうためにレポートを提出してもらいます。たとえば、図と地(背景)の関係について研究している学生は、だまし絵で有名なエッシャーについて調べたり、目の錯覚はどうして起こるのか心理的なことを調べたりしています。
私の研究室の演習は、学部生のほか、修士や博士を目指す大学院生も参加しています。毎週、一人の学生が自分の作品やレポート、論文の進捗(しんちょく)について発表し、周囲のメンバーから意見をもらうのです。発表者以外も一人一回は発言をするようにと指導しています。私は学部生には優しくアドバイスするように心がけていますが、大学院生、特に博士を目指す学生には厳しく指導しています。それは、自分と同じ舞台にもうすぐ巣立つからです。そうした姿を見て、学部生も自分もしっかり発表しなくてはと思ってくれているようです。



■優しいデザインには教養が必要

山本先生が手掛けたつくば市の公共サイン

学生たちにも授業で伝えているのですが、デザインには制作物を使ってくれる相手がいます。その点がアートと異なります。特に私が手がける公共サインは、文化・言語・国籍の違い、老若男女といった差異などを問わずに利用することができるものが求められます。
うわべの格好よさを求めるのではなく、本質的なデザインをするためには、基礎的な知識、そして使う人を想像できる心が必要です。使い手を想像する優しさを持つためには、教養も必要でしょう。デザインを志す人には芸術だけでなく、さまざまなことに興味を持ち、書籍などを読み知識や理解を深めてほしいと思います。特に、環境色彩というのは、その国や街の文化とか歴史が色濃く現れてきます。その国の街の色を知ろうとすると、その国や街の文化や歴史についても知りたくなる、それがこの学問の面白い部分なのです。
近年、調べたいことがあればスマートフォンで手軽に検索できるようになっており、スマートフォンで検索できる世界がすべてだと思っている学生も多いように感じます。ネットで検索できる情報には限りがありますし、玉石混交です。できれば、信頼できる出版社から発行された書籍を読む機会を増やしてほしいですね。



■自分の好きなことから将来の道を考えて

私は大学2年生の時に、ギリシャ、イタリア、フランス、イギリスなど、ヨーロッパ各国の新旧の西洋建築を見て回った経験があり、「何て美しいのだろう」とその町並みに感嘆し、景観と色彩に興味を持つようになりました。その思いは、大学院を経て、教員になった今も研究の根底にあります。
進路を考える際には、一時の成績の良しあしで進路を決めるのではなく、自分が興味を持っていることや、ずっと勉強をしたいと思っていることを参考に考えることが大切だと思います。消去法のように進学先を決めてしまうと、途中で進むべき道が見えずに休学や退学をしてしまう可能性もあるからです。保護者のかたには、ぜひお子さまが好きな道に進めるよう応援していただきたいと思います。芸術系は就職先がないからと心配されるかもしれませんが、教員という選択肢もありますし、最近は就職率もよくなっています。特に筑波大学では、10年、15年たった時アートディレクターなど、プロジェクト全体を進められるようなリーダーとなる人材を育てています。また、まだ世の中にはない新しいものを生み出す力を持つ人材を育てられればと思っています。芸術系の大学でも大学ごとに強みは異なりますので、お子さまの興味のある分野を調べる手伝いをぜひ保護者のかたにもしていただきたいですね。

プロフィール


山本早里

専門分野は環境色彩、環境心理。茨城県つくば市や文京区公共サイン計画などに携わる。日立市の高速バス輸送システムのデザインは、2014年にJCOMMデザイン賞、EST交通環境大賞優秀賞を受賞。著書『光と色の環境デザイン』(共著、オーム社)など。

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