英語5技能の時代に育てる「21世紀型思考力」とは?【前編】-加藤由美子-

英語の大学入試は、「聞く・話す・書く・読む」の4技能化が検討されていますが、世界のトレンドはもはや英語5技能。世界で使用されている言語教育の枠組みCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)では、4技能にinteraction(やりとり、対話)を加えて5技能としています。「対話力」は、考える力を育てるうえでも極めて重要です。

対話力を育てるために、今後日本と世界の英語教育はどう変わっていくのでしょうか。
毎年シンガポールで開かれる、RELC(地域言語センター)国際セミナーで得た知見をもとに考察しました。



英語を通して身に付ける「共に考える力」

RELCは、東南アジア教育大臣機構(SEAMEO)という政府間組織のもとにある言語教育センター。経済的発展の著しい東南アジア地域において、言語教育の中枢を担う組織です。本部のあるシンガポールでは、毎年国際セミナーが開かれ、熱い議論がくり広げられます。
49回目となる今回のテーマは、「21世紀の言語教室での批判的能力(CriticalCompetencies)」。つまり、言語(主に英語)力の育成を通じて「批判的に思考する力」を育てるということです。



英語は「対話」「議論」に適した言語

RELC国際セミナーに、過去2回参加した時は10名ほどの日本人がいました。ところが今回、日本からの参加者は著者1人。日本の英語教育研究は言語習得の部分が中心で、21世紀型の思考力育成への関心はあまり高くないことが表れているように感じました。
その能力の育成に欠かせない「対話」や「議論」は、日本語でやればいいのではないか、英語の習得だけで大変なのに、英語で議論をさせるのはハードルが高すぎないか……。そう考えるかたも多いのではないかと思います。

「対話」や「議論」を日本語(母語)でたくさん行うことはまず大切なことです。一方で、英語には「対話」に適した特徴があります。たとえば、常に主語‘I’を立てること。個々の考え方の違いを明確にしない日本語より、「私は~と思う」と意見を述べやすい言語の特徴を持っています。また、そう考えた理由(Why? Because~)を常にはっきり求められるコミュニケーションスタイルもあります。
ですから、日本語と並行して、英語で対話を行うことで、対話力、思考力を高めやすくなるといえると思います。



対話を通じて、他者のものの見方を知る

セミナーで発表されたさまざまな取り組みの中でも、ケンブリッジ大学教育学部のニール・メイサー教授による「教えること・学ぶことに効果的な対話の創造」という講演は印象的でした。メイサー教授は‘Thinking Together Project’において、日本を含む各国で研究・実践を進めています。「対話」を表面的な「やりとり」(interact)で終わらせずにそこで、「共に考える」(interthink)にまで持っていくことで、子どもを教えること・子どもが学ぶことの質を高める、というのが教授の考え方です。
対話を通して「共に考える」ためには、他者のものの見方(Point of View)を知らなければなりません。対話を繰り返すと、人の心を推し量れるようになると共に、多角的なものの見方ができるようになります。



生徒どうしの議論を深めるために、教師はたくさん話さない!

生徒の対話を促すため、教師はどんな働きかけをすればよいのでしょうか。メイサー教授は次のようなポイントを紹介しました。

1 教師は生徒よりたくさん話さない。できるだけ生徒だけで話していけるように促す。
2 Yes/Noではなく、できるだけ5W1H(誰が、何を、いつ、どこで、なぜ、どのように)で答える質問をする。
3 まだはっきりまとまっていなくても、とにかく意見を言ってみるように促す。
4 議論の中で何らかの誤解が生じていたら、その誤解について説明や解釈を加える
5 小グループでのよい議論の内容を全体に伝え、他のグループも参考にできるようにする。
6 生徒たちが経験していそうなことを、現状の議論につなげて話す。

日本でも、現行の学習指導要領において、高校の英語の「授業は英語で行うことを基本とする」としていますが、これはできるだけ生徒にたくさん英語を話させる「発信型」+「対話型」授業へのシフトを目的としています。
ですから、今後英語の教師に求められるのは、難しい説明を英語で行える英語力ではなく、ここで挙げられているような「生徒に英語をうまく話させる技術」だといえるでしょう。また、学校や家庭生活での、日本語での話し合いでも、これらの技術は大いに役立ちそうです。くり返しになりますが、まずは日本語でたくさん「対話」することが望まれます。



生徒どうしで話させる技術

たとえば2の「5W1H」。「あなたはりんごが好きですか」という質問なら「はい」か「いいえ」で話が終わってしまいますが、「あなたはどんな果物が好きですか」ならば、話はどんどん広がっていきます。「私はりんごが好きです」「なぜですか」「母が青森県生まれでりんごが好きなものですから、よく食べるうちに……」というふうに。
また、で指摘されているとおり、議論の場でぼんやりとした意見が浮かんできても、自分の中でうまくまとまらないので、結局発言せずに終わってしまうといったことはよくあります。しかし、この「ぼんやり」の中に、重要な問題定義や新しい視点が含まれている場合も多いのです。“Well, I think、……(えーと、私は思うんですけど……)“Question!“(質問です!)などととにかく声を出し、話しながら考えをまとめるのもよい方法です。言葉を探しながら話すことで、会話力も付くのです。

次回は引き続き、RELC国際セミナーでの講演をもとに、「共に考える」力を付けるために知っておきたい対話のルールや、今後の英語教育に求められることについて述べます。


プロフィール


加藤由美子

1987年(株)ベネッセコーポレーション入社。1997・98年Berlitz・Singapore学校責任者として駐在。帰国後はベネッセの英語教育事業開発を担当。
研究部門異動後は、ECF(幼児から成人まで一貫した英語教育の理論的枠組み)開発やARCLE(ベネッセ教育総合研究所が運営する英語教育研究会)の立ち上げ、小中高校生の英語学習実態調査、中高の英語指導調査、英語力を上げた学校の研究などに携わる。2019年度からは言語教育研究にも携わる。文部科学省「国際バカロレアに関する国内推進体制の整備」事業審査委員(2021年)。

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