音読を繰り返し、英語を音から身に付ける授業[こんな先生に教えてほしい]

毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。
小学生から高校生、そして、先生や保護者のかたに役立つ教育番組を制作するためです。その中で、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。



今回、紹介するのは、広島県のAF先生が小学6年生に行った英語の授業です。それは、英語を音から学び、「聞く力」も「書く力」も伸ばし、さらに子どもたちに「やればできる」という自信を育てます。
授業では、文法は一切教えません。声に出し英文を丁寧に読む「音読」を繰り返し続けるだけです。つまり、英語を母語として覚える赤ちゃんと同じように理屈ではなく、音から学ぶ試みです。

AF先生は、5年生から担当し、音読による英語の授業を始めました。授業は、週1回。クラスに英語教室に通っている子どもは一人もいません。取材したのは、6年生の7月。およそ1年3か月で、子どもたちは、アメリカのケネディ元大統領の就任演説をスラスラ読めるようにまでなっていました。

最初に取り組んだのは、「I like spaghetti.(私はスパゲティが好きです)」「I like salad.(私はサラダが好きです)」……といった簡単な文です。次に、「Birds of a feather flock together.(類は友を呼ぶ)」「Two heads are better than one.(三人寄れば文殊の知恵)」……などのことわざへと次第にハードルを高くしながら、さまざまな文章の音読を続けてきました。
当初は、ともかく英語らしく読めることだけを目標に取り組んだそうです。すると、4か月を過ぎたころから、子どもたちに変化が出始めました。教えたことのない単語を初めて示した時、子どもたちが、何とか自分の力でその単語を読んでみようとするようになったのです。
つまり、文章を読み続けたことで、子どもたちには、いつの間にかスペルから音を想像する力がつき始めました。

こうした子どもたちの変化もうれしいことなのですが……。
その時の様子を語った先生の言葉が印象的でした。
「自分なら読めるのでは……と思う自信を持った子が目の前にいる。そのことが、なによりうれしい」
音やリズムに慣れ、自然と文法やスペルのルールに気付き、つづりを手がかりに音を想像するようになった子どもたちは、「英語はなんとかなる」という自信が芽生えたのです。

この後、AF先生は、「書く力」を育てることに挑戦します。音を聞いただけで、スペルを書くことはできるのか試しました。 
先生が用意した問題は、waterやmanyなどの子どもたちが初めて出合う単語です。
授業にはルールがあります。わからなかったら書かない。書いた人は片手を挙げる。そして、合っていると自信がある人は両手を挙げる。授業には常に、ゲーム感覚を取り入れます。楽しむことを取り入れることが、未知のものと向き合う時には欠かせないとAF先生は言います。

さて、小学6年生の夏休み前の段階で、音を聞いただけでスペルを書けるのでしょうか? 
結果は、正解者はあまり出ませんでした。でも、water では、多く子が、語尾にrをつけていました。つまり、伸ばす時の音の感覚を理解していたのです。また、manyでも、語尾にyをつける子が多いという結果になりました。
そして、一番驚いたのは、「わからない」「できない」という子がいないことです。みんな「なんとかなるのでは?」と諦めずに取り組んでいました。その「とりあえずやる」という姿勢がすばらしいと思いました。
その様子を見ながら、AF先生の言った言葉も印象に残ります。

「今できなくても、次にできればいい。
今日できなくても、明日できればいい。
今週できなくても、来週できればいい。子どもたちがそう思う自信を育てることが、教師の仕事です」


本当にそう思います。


プロフィール


桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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