「目標から逆算」の進路選択だけが正解?ミスマッチを防ぐため、保護者はどう関わるか

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子どもの「進路選択」と聞くと、志望大学や就きたい職業から逆算して今すべきことに取り組む……という姿をイメージされるかたも多いのではないでしょうか。

一方で、目標からの逆算ではなく、さまざまな挑戦を通じて選択肢を増やしていく末広がり型の進路選択という考え方があります。今回は3人の教育関係者に、子どもが望む進路選択をするために必要な経験や、保護者ができる支援についてお伺いしました。

※本記事は、2024年8月に行われたオンラインイベント「気づきと学びを最大化するプロジェクト:末広がりの進路・キャリア支援とは?」(主催:ベネッセ教育総合研究所)の内容を編集したものです。

この記事のポイント

大学入学後にミスマッチで悩む卒業生が急増

進路指導に関する話題提供を行ったのは、長崎県立諫早(いさはや)高校の後田康蔵先生です。県内有数の進学校である同校は、約10年前、大学入学後にミスマッチで悩む卒業生が増えていたことをきっかけに、進路指導を変えました。

「生徒は大量の課題に追われ、学力中心で進路を考えていたため、『行きたい大学』ではなく、『行ける大学』を選ぶ傾向にありました。そこで、自分のやりたいことを見つけたり、さまざまな挑戦ができるよう、学校から出す課題を大幅に減らして、自分が興味・関心のあることに向き合えるようにしました」(後田先生)

生徒の個性や活動を生かす受験指導に挑戦

さらに、教員が生徒の成績を軸として進路を検討する従来の方式は残しつつも、それに加え、多様な個性や活動経験を持つ「キャリアエリート」の生徒を見いだして、学力にとどまらない進路支援を検討する「キャリア検討会」を実施しました。

生徒1人につき教員2人がついて伴走し、その生徒が興味・関心のある分野に詳しい社会人や企業を紹介し、興味・関心をさらに深め、希望進路を明確に描けるような支援を行っています。

同校が定義する「キャリアエリート」の8項目(映写資料より)

そうした支援を受けた「キャリアエリート」の生徒は、勉強や部活以外の「第3の自分」を追究する姿が見られるようになったと、後田先生は話します。

「自分の個性や活動を生かせる入試方式に挑戦するようになり、難関大学の総合型・学校推薦型選抜の合格者が増えました。生徒は、志望理由書の作成や面接の練習などの受験準備をとおして、自分を見つめ直し、より人間的な成長を遂げていると感じます」

小・中学生はどう過ごしたらいい?

後田先生のお話を受けて、後田先生と、通信制サポート校 CAP高等学院 代表の佐藤裕幸先生、立命館アジア太平洋大学 東京オフィスPRマネージャーの伊藤健志氏が、進路選択で大切にしたいことについて対話をしました。(モデレーター:ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター長 小村俊平氏)

写真左上/後田先生 右上/伊藤氏 
左下/佐藤先生 右下/小村氏

対話から、進路選択における2つのポイントが見えてきました。

1つ目は、成績や就きたい職業から逆算する従来型の進路選択だけではなく、子ども自身が自分のありたい姿を模索し、それを叶えられる進路選択をすることも重要であること。
2つ目は、高校時代にさまざまな経験を積んだり、多様な分野の先輩や社会人と知り合ったりして、視野を広げることです。

高校生がこの2つのポイントを押さえた活動ができるようにするには、小・中学生はどのように過ごしたらよいのでしょうか。

後田先生は次のように話します。

「本校では、『進路について考えず、遊んでばかりで困る』と悩む保護者に、『我慢してください。お子さんはいつか歩き始めます』と伝えています。たとえば、桜並木がきれいな場所に連れて行っても、本人がスマートフォンばかりを見ていたら意味がありません。本人の意思が何よりも大切です。習い事でも遊びでも部活動でも構いません。子ども自身が楽しいと思えることを見つけてほしいですね」

佐藤先生は、子どもがやりたいことを続けられる環境を整えてほしいと述べました。

「有名スポーツ選手や著名人が幼少期に取り組んでいたことを、子どもに真似させたとしても、同じように成長するとは限りません。大切なのは、子どもが自分を見つめる時間です。保護者のかたは、子どもがやりたいことを見つけたら、それを続けられる環境を整えてほしいと思います」

「偶然」が子どもの道を切り開く

伊藤氏は、特に小学生のうちは「自然に触れてほしい」と語ります。

「自然の中では、雨が降ったり、風が吹いたり、想定外のことばかりが起きます。山や海に行ったり、虫や魚を捕まえたりといった活動を通じて、そうした状況を子どものうちに多く経験しておけば、大人になって答えが1つではない課題にぶつかっても、試行錯誤しながら乗り越えられる力が身に付いていくと思います」

最後に小村氏は、保護者には「子どもが内省をする支援をしてほしい」と語りました。

「スタンフォード大学の心理学者、ジョン・D・クランボルツ教授が提唱する『計画的偶発性理論』では、『個人のキャリアの8割は、偶然の出来事によって決定される』と言っています。成功者と言われる人の多くが、一直線に目標を達成したわけではなく、いろいろな偶然を利用しながら、道を切り開いてきたわけです。つまり、夢や目標はゴールではなく、進路を選択する際の理由や判断基準ととらえることが重要です。そのようにすれば夢を達成しても、燃え尽きてしまうことはないと思います」

また、子どもが、自身のやりたいことを見つけるために必要な支援について、こう続けます。

「後田先生も言われていたように、自分の思いや行動を振り返ることが大事です。保護者のかたは、子どもに問いかけて、子どもの思いを引き出し、それを子ども自身が言語化する内省を手伝ってあげてください。それが、より自分に合った進路を選べるヒントになるはずです」

プロフィール

伊藤健志(いとう けんじ)

立命館アジア太平洋大学 東京オフィスPRマネージャー
1989年に大学卒業後、一貫して国際教育分野の仕事に携わり、2002年に立命館アジア太平洋大学に入職。大学では交換留学、入試業務、学長室などを経て、2017年よりAPU東京オフィスにてマーケティング業務に従事。

プロフィール

後田康蔵(うしろだ こうぞう)

長崎県立諫早高校 指導教諭
教員歴27年目。同校に赴任して今年で13年目。現在は指導教諭。担当教科は物理。

プロフィール

佐藤裕幸(さとう ひろゆき)

通信制サポート校 CAP高等学院 代表
早稲田大学卒業。完全1対1の個人指導塾で16年、教員として6年、教育に携わる。「社会とつながることで本質的な学びの機会を実現し、高校生の成長を促す」という信念の下、さまざまな活動を展開。

プロフィール

小村俊平(こむら しゅんぺい)

ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター長
1975年東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。全国の自治体・学校とともに、次世代の学びの実践と研究を推進。全国の教員や中高生とのオンライン対話会を毎週開催しており、学校・家庭の学びの変化や先進事例に詳しい。
これまでにさまざまな自治体・大学・高専のアドバイザー、複数の学校設立に携わるなど、初等中等教育から高等教育まで幅広く活動。また、OECDシュライヒャー教育局長の書籍翻訳等の経験があり、国際的な教育動向にも精通している。
教育スペシャリスト紹介

活動実績一覧
他に日本STEM教育学会幹事、 日本教育情報化振興会理事、内閣府子ども・若者調査委員、信州WWLコンソーシアム座長、仙台第三高校スーパーサイエンスハイスクール運営指導委員等を兼任。

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