「親子留学」って何?【前編】~幼いうちに楽しく異文化体験を

小学校でも英語が教科化されるなど、英語教育への関心が高まる中、親子で英語圏に出かけて、気軽に生きた英語にふれられる「親子留学」が注目されています。
親子留学の意義や、参加する場合の注意すべき点について、言語教育学、バイリンガリズムがご専門の豊田ひろ子先生に伺いました。



英語を日本で学ぶのは、なぜ難しい?

近年、子どもたちに、生きた英語にふれさせたいという保護者のかたが増えてきています。「幼いうちから慣れ親しんでおけば、小学校で始まる英語の授業で苦労せずにすむのではないか」「将来、抵抗なく海外の人々とコミュニケーションをとれるようになってほしい」……そんな気持ちの表れだと思います。
しかし、英語は日本語と構造が異なり、音声も表記もまったく違う言語です。しかも、普段英語を使う必要のない日本で、英語を使いこなせるようになるのは難しいことです。

生活言語でない語学の習得が難しいのは、日本だけの話ではありません。
たとえばカナダでは、英語とフランス語が公用語とされていますが、ケベックなど一部の州を除いて、フランス語は日常生活の中で使われていません。そこで、数多くの公立の小・中学校で、教科をフランス語で教える「フレンチ・イマージョン」(フランス語漬け)という指導法が採用されています。フランス語は、構造も語彙(ごい)も英語とよく似ていますが、それでも一定期間は「フランス語漬け」の環境にしないと、結局フランス語を使えるようにはならないのだそうです。
とはいえ、日本国内で「英語漬け」の環境に身を置くのも難しいことです。

そこで、親子で英語圏に出かけ、気軽に生の英語に親しむ体験をしてみようというのが「親子留学」です。最近は、語学学校や旅行会社が、さまざまな企画を用意しています。

その多くが数日~数週間程度の短期滞在ですから、行ったからすぐに話せるようになる、というものではありません。重要なのは、生活の場で使われている生の英語にふれ、「英語が使えるとどうなるのか」という実感を得ること。その実感が、英語を学ぶ原動力となるからです。



ドリルやワークだけでなく、生活レベルの異文化体験を!

日本では、英語を学ぶ機会は多いものの、生活の中で「使う」楽しさを味わう機会が限られているため、ともすれば「勉強のための勉強」「テストのための勉強」になりがちです。実は私もその一人で、中学ではなんのために英語を学ぶのかわからず、テスト勉強は嫌いでした。ところが高校時代、1か月のヨーロッパ英語研修旅行でイギリスに滞在したのがきっかけで、英語に対する意識がまったく変わったのです。
まず、ホテルでの体験。うっかり鍵を室内に置いたまま出てしまい、部屋を締め出されて困っている時、見知らぬ日本人ガイドの女性が、フロントでぺらぺらっと英語で事情を説明してくれました。すると、奇跡のように、部屋の鍵が私の手に(笑)。英語を話すことで、目の前の問題が解決したわけです。まるで魔法みたいだなと思いました。ホームステイ先では、一生懸命、つたない英語を使って話したら、ドイツやシリア、ベルギー、ポルトガルの人たちとも友達になれてしまった。これはすごい言葉だなと。まったく違う国の人たちの中でも、笑い合ったり、わかり合えてほっとしたりできるし、話し合うことで問題を共有することもできる。帰国後、がぜん英語の勉強に前向きになりましたね。

そんな体験を自分自身でもしているので、親子でアメリカ、カナダ、オーストラリアに出かけたりしています。子どもが現地の子どもたちと笑顔やジェスチャーで気持ちを交し合っている姿を見ると、やっぱり言葉って人の中にあるのだな、と思います。いつも別れ際は涙するのですが、今度会うときはもうちょっと英語がしゃべれるようになりたいな、という意識が子どもなりに芽生えているようです。

英語を学ぶ目的は、「コミュニケーションツールとして英語を使いこなせるようになること」です。そして、日本人としてのアイデンティティーをきちんと持ったうえで、さまざまな国の人と語り合い、共通点や差異を認め合える、国際人としての感覚--いわば「みんな違って、みんないい」感覚を身に付けることが理想です。
子どもは、脳の発達段階から見ても、論理よりも体験から、全身を使って学ぶことが得意です(後編参照)。また、上のような国際感覚を身に付けるなら、大人のように気負いやコンプレックスを感じることのない、幼いうちほどよいといえます。
ですから、保護者と一緒に、安心して楽しく異文化体験ができる「親子留学」は、英語を学ぶ意欲を高めるのに有効と考えられます。

次回は、「親子留学」の体験談をまじえ、発達段階に応じた子どもの語学習得力の特徴と、参加するにあたって保護者が注意すべき点について伺います。


プロフィール


豊田ひろ子

東京工科大学教授。専門は言語教育学、児童英語教育、バイリンガリズム。幼児の英語学習の習熟度調査や、公立小学校の英語活動のボランティアに取り組んでおられます。

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