第2回 公立中高一貫校「受検」と私立中学「受験」は何が違うのか(2)
前回のコラムでは、公立中高一貫校「受検」と私立中学「受験」について、「検」と「験」の文字の違いの意味と、「公立受検」と「私立受験」の共通点をお伝えしたうえで、(1)出題形式 (2)内容 (3)採点評価の3つの観点から違いをご説明しました。
第4の違いは、私立中学の「入学試験」が、各教科の課題についてトレーニングを積んで習得した「努力の跡」で測るのに対し、公立中高一貫校の「適性検査」は、入学後に学校の育成したい生徒に適合する資質を測ろうとします。言い換えれば、教科の知識と技能を受験テクニックも含めた慣れによって効率よく身につけ、即時に出力できるよう「努力した結果」を私立入試は要求します。一方、適性検査は知識の量ではなく、その時点で有する基礎的知識と技能を駆使して、その場で表出できる「質」を要求します。
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この点について、某都立中高一貫校の前校長は、その学校の受験偏差値が各社模試の合否判定テストで60~63と設定されていることについて「まったく気に留めていない。そもそも私立中学受験と本校の適性検査問題は、児童を測るものさしが違うのだから、どのような観点で偏差値をつけているのか、こちらが尋ねたいくらいだ」「本校が適性検査で見ようとする力は、トレーニングによってくり返し勉強して身につけた知識や技能ではなく、児童の『質』である」そして、その質は、「努力の跡ではなく、本校入学後伸びていく本質を見極めようとするものだ」と言っています。そこで「本質とは?」と尋ねると、「本校の教育目標、出題の基本方針・適性検査問題の出題の方針、を熟読してください」と言われました。
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私立中学受験との違いが、前校長のことばに表れています。公立中高一貫校は、適性検査等で測りたい児童の力を、出題の基本方針と検査問題の出題の方針で明示したうえで検査します。したがって受検者の親は、学校の明示する方針を理解したうえで総合的に対策を講じなければいけません。私立中学受験の場合は、過去問に当たり、その傾向に沿った類題を数多く解いて各教科の解答力を高めることが対策になります。「受検(受験)」対策の違いが、次の第5の違い、すなわち「親のかかわり方」の違いを生むことになるのです。
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かつて某大手中学受験専門塾の塾長(故人)が「中学受験は親の受験」と喝破したのは、かれこれ30年ほど前になります。受験指導は塾にゆだねるとしても子どもの合格を勝ち取るのは親の力である。家庭の協力・親子の連携が、私立中学受験を成功に導くのだという主張でした。その提言は今日でも有効に働いています。そして公立中高一貫校受検の場合も、「適性検査受検は親子の受検」であることに変わりはありません。しかし、親のかかわり方は「私立受験」と相当異なります。受験テクニックを駆使して表出する「受験学力」が、小学3、4年から6年にかけて努力と練習を積み、費用と時間を投入して獲得可能な「学力」であるのに対し、「受検」は、幼児からの親子のかかわりの中で育成してきた「何か」が測られるのです。すなわち幅広い好奇心や探究心、情緒性や論理的思考力などの育成を含めた親の子どもへの働きかけや姿勢の集大成が、「適性検査」の根底で問われているのです。