「将来やりたいこと」に向けた勉強にはある効果も!保護者にできるサポートとは【専門家解説】

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「何のために勉強するか」は子どもによってさまざまです。「将来やりたいこと」のために勉強するというのも、大切な動機の一つでしょう。

しかし、ここに気になるデータがあります。東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が共同で行った調査では、特に小・中学生で、志望校に進むことや、将来なりたい職業につくことを「勉強する理由」に挙げる割合が、ここ数年減少傾向にあることが明らかになりました(図1)

この結果は、めまぐるしく社会が変化するなかで、子どもが将来の社会や自分の姿をイメージすることが難しくなっていることを感じさせます。

一方で、「将来のために学ぶ」という動機は、時に子どもの勉強によい効果をもたらすようです。その内容や、保護者のかたができるサポートについて、ベネッセ教育総合研究所・主任研究員の岡部悟志(おかべ さとし)氏に伺いました。

この記事のポイント

「将来のために学ぶ」メリットとは

将来のために学ぶという意欲のある子どもは、自分で工夫をしながら上手に勉強に取り組むことが、これまでもいくつかの研究で明らかになっています。

たとえば冒頭の調査では、将来のために学ぶという動機がある子は、ない子よりも「何がわかっていないか確かめながら勉強する」割合が高いという結果が見られました(図2)

子どもは勉強に取り組む中で、難しい内容や興味を持てない内容など、さまざまな壁にぶつかります。そんな時でも「将来のために学ぶ」という動機は、諦めずに粘り強く取り組んだり、工夫して克服しようとしたりする姿勢につながる可能性があるといえます。

「AIが仕事を奪う」不安も

そもそも、「将来のために学ぶ」という意欲を持った子どもは、なぜ減少しているのでしょうか。

その理由は、教育環境と社会の急速な変化にあると考えられます。
教育環境という点では、日本では学校教育の中で、学校での勉強と職業とを結び付けて教えられることが少なかったということが挙げられます。最近ではキャリア教育の取り組みも盛んになっていますが、諸外国と比べると日本の子どもたちは、学校で学んだことが実生活や社会で役に立つと感じにくいことが、国際比較調査から明らかになっています。

社会の急速な変化については、AIなどのテクノロジーの発展で将来の予測が難しくなり、夢や目標を描きづらくなっていることが挙げられます。
「AIが仕事を奪う」「今ある職業がなくなる」といった指摘を耳にすることも多く、不安は大きくなるばかり。ますます将来への見通しを持つことが難しくなっているといえるのではないでしょうか。

カギは社会問題への関心。低学年ではチャレンジングな経験を

将来の見通しが立てづらい中で、大人にはどのようなサポートができるのでしょうか。

カギとなるのは「社会問題への関心」を高めることです。
高校3年生を対象とした調査では、2020年以降のコロナ禍を体験した生徒は、それ以前と比べて「社会問題について真剣に考えた」という比率が大きく上昇しているというデータがあります(※1)

これは、新型コロナウイルスの感染拡大が世界的な課題となる中で、高校生自身は、休校や学校行事の制限、進路選択の混乱などの影響を直接受けたことで、自分と社会をリアルに結び付けて考えることが増えたためだと考えられます。

さらに、この間に学校現場に広まりつつある「探究的な学習」も相まって、高校生にとって学びの中で社会問題を考えることは当たり前になりつつあります。これを機に、社会問題を通じて「自分はこういうことをしていきたい」という将来観を高めることが重要ではないかと考えています。

では、小・中学生のうちから「社会問題への関心」を高めるにはどうしたらいいのでしょうか。
特に、低学年では難しく感じられることもあるでしょう。

ヒントとなるのが「チャレンジングな経験」を持つことです。ベネッセ教育総合研究所の分析によると、小学4年生までに少し難しいチャレンジングな経験(好奇心・探索、果敢な挑戦、夢中・没頭、達成・自信、将来を考える、といった経験)をした子どもほど、高校卒業まで、社会への関心や将来の見通しを持っていることが明らかになっています(図3)

少し難しいことに保護者のかたや先生、友達の助けを借りながら取り組むことは、子どもたちの視野を広げます。それが周りのこと、ひいては社会のことへの関心に少しずつつながっていくことでしょう。

保護者のかたの「ちょっとした問いかけ」がきっかけになる

「チャレンジングな経験」を持つといっても、ハードルの高いものをイメージしなくても大丈夫です。非日常の経験をさせることも効果的ですが、普段の生活にプラスαで取り組めることを意識するとよいですね。そのほうが経験の頻度を高めることにもつながります。

保護者のかたは、お子さまの学びや経験についての問いかけを意識してみてください。

たとえば、学校で行われている授業や講演会、夏休みの自由研究、自然や動物を見ての感想など、お子さまの活動に関心を持って「どんなことがわかったの?  教えてほしいな」と学びのアウトプットを促してみるとよいと思います。「なんでこうなるんだろう?」と一歩踏み込んで考えるきっかけが、お子さまの知的好奇心に火をつけるかもしれません。

また、テレビなどを見ながら、保護者のかたが当事者として感じた社会課題について話をしてあげるのも効果的です。保護者が体験したことであれば、お子さまも「自分には関係のない話題」とは思わずに、考えることができるのではないでしょうか。

予測が難しい社会の中で、将来どうなるかや、変化する職業を直接教えることは難しいものです。しかし、普段の生活を起点にチャレンジングな経験を促すことは、保護者のかただからこそできるサポートです。それにより、お子さまが将来の社会や生活を想像して、「将来のために学ぶ」という動機付けにつなげていけるとよいですね。

(出典)
※1 ベネッセ教育総合研究所 「コロナ禍に進路選択を迫られた高3生の経験が示すこと~世代格差からの考察」
https://berd.benesse.jp/special/gap/dissertation_03.php

※図1・2東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所 「子どもの生活と学びに関する親子調査2023」より
https://berd.benesse.jp/shotouchutou/research/detail1.php?id=5929

※図3 ベネッセ教育総合研究所 「[データ集]第6回『経験を通して学ぶことの意味』について考えるデータ」より
https://berd.benesse.jp/special/datachild/datashu06.php

プロフィール



東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程修了.博士(学術)。これまで高等教育や社会人領域の調査研究を担当。現在は、乳幼児から初等中等領域までの子どもの発達や成長、保護者の子どもへのかかわりや教育観などに関する調査研究に取り組む。

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