子どもの幸せは、保護者の幸せから? 2万組の親子調査で判明した「収入や成績よりも大切なこと」

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子どもには、幸せを感じながら日々を過ごしてほしいもの。そのためには、まずは保護者自身の幸せについて考えることが、大きな鍵になるかもしれません。

東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が行った約2万組の親子の継続調査(※1)によると、親子の「幸せ実感」は、互いに影響し合うことが明らかになりました(※2)。親子の幸せのため、そして保護者自身が幸せを実感するためには、どのようなことが必要なのでしょうか。ベネッセ教育総合研究所の木村治生主席研究員に聞きました。

この記事のポイント

親子の「幸せ実感」はお互いに影響し合う

保護者とその子どもに、自分が幸せかどうかをたずねたところ、現在「とても幸せ」と回答した保護者の子どもの46.6%が、同じく「とても幸せ」と回答しました。一方で、「幸せではない」と回答した保護者の子どもが「とても幸せ」と回答した比率は17.6%にとどまっています。

また、保護者が「幸せではない」と回答していると、「幸せではない」と回答する子どもの割合が高まることもわかりました。親子の幸せ実感は、相互に関連しています。

「今」だけでなく「未来」の幸せにもつながる

親子の幸せ実感は、今だけでなく未来にも影響し合います。

同じ親子の幸せ実感について、6年間の変化を追ったところ、保護者の今の幸せ実感がその後の子どもの幸せ実感に、子どもの今の幸せ実感がその後の保護者の幸せ実感に影響することがわかりました。
このように、親子の幸せは相互に影響し合い、循環する関係にあります。今はもちろんですが、この先も子どもが幸せだと感じるためには、保護者自身が幸せを実感していることが重要であるといえるでしょう。

お金や成績よりも、子どもの幸せと関連するものとは?

子どもの幸せ実感について、より詳しく見ていきましょう。

上の図の数字は、数字が大きい項目ほど子どもの幸せ実感との関連が強いことを示しています。ここからは、成績のような他者と比べることができるものより、自分の性格や、家族・友達・先生などとの人間関係における満足度のほうが、幸せ実感と関連が強いことが読み取れます。特に「家族との関係の満足度」は、最も強い関連が見られます。

また、お金と子どもの幸せ実感との関連を探るために、世帯年収別に子どもの幸せ実感を見たところ、年収による差はそれほど大きなものではないことがわかりました。金銭的に豊かでなければ幸せを実感できない、というものではないようです。

人々の幸福や充実感を科学的に研究するポジティブ心理学では、幸せには収入や地位のような他の人と比べるものよりも、人間関係や自己成長、趣味など、自分自身が満足できるものが重要だといわれています。調査の結果も、この内容に沿ったものといえるでしょう。

保護者の幸せは、小さな習慣から高められる

子どもの幸せ実感には、保護者の幸せ実感や家族との関係の満足度が強く関連することがわかりました。この意味では、保護者自身が幸せを実感できていることが大事です。では、幸せを感じている保護者は、どのような生活を送っているのでしょうか。保護者の普段の生活と、幸せ実感との関連を見てみましょう。

上の図に示したように、普段の生活の中で「趣味やスポーツを楽しむ」「自分の能力を高めるための勉強をする」「友人とすごす・話をする」「近所の人と話をする」といった機会がある保護者は、そうした機会がない保護者よりも「とても幸せ」と感じる割合が高いことがわかりました。

これは、先ほど紹介したポジティブ心理学の指摘とも一致しています。良い人間関係や、趣味、目的のある勉強などがある充実した生活は、保護者自身の幸せにも良い影響を与えます。そして、保護者の幸せは、子どもの幸せにもつながっていきます。このことは、家庭の幸せを考えるうえで大きなヒントになるのではないでしょうか。

とはいえ「そんなことを言われても、毎日忙しくて、趣味の時間をつくるのは難しい」「友人ともなかなか会えないし……」と思われるかたもいらっしゃるかもしれません。そのようなかたでも、1日の中で、ほんの数分でも好きなことをする時間を楽しむといった、小さなことから始めてみてはいかがでしょうか。大切なのは、自分がポジティブな気持ちになれる時間をつくること。知り合いとおしゃべりする、好きな音楽を聴くといったことでもよいでしょう。

また、もし困ったことがあったら、他人に相談することも大切です。配偶者や子どもと話をすることでも、幸福感は高まります。周囲に話すことが難しければ、学校の先生、医師などの専門家の他、公的な相談窓口なども活用してみてください。「人に助けを求める力」を高めること自体も、自身の幸せにつながります。

「ポジティブにならなきゃ」「自分がどうにかしなきゃ」と重く考えすぎずに、おおらかに構えながら、シンプルに自分の気持ちに目を向けてみてください。

まとめ & 実践 TIPS

保護者のかたは、つい子どもや家族優先で、自分のことが後回しになってしまうこともあるかもしれません。でも、保護者自身が幸せであることは、子どもの幸せにもつながります。まずは「どんな時間を持とうかな?」と考えることから始めてみるのもいいですね。

(出典)
※1 子どもの生活と学びに関する親子調査(東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所による共同調査)
調査時期:2015年〜2023年の各年7〜9月
調査対象:約2万組の親子
https://benesse.jp/berd/special/childedu/

※2 分析の内容は、以下で確認できます。
https://benesse.jp/berd/special/childedu/pdf/newsLetter/newsLetter_20241218.pdf

注)各グラフの数値は小数点以下第2位を四捨五入したものを表示

プロフィール


木村治生

https://researchmap.jp/hrkmr/

これまで、子ども・保護者・教員を対象にした調査に携わり、子どもの生活や学びとそれにかかわる周囲の大人の意識・行動に関する研究を行う。
上智大学大学院(教育学修士)、東京大学社会科学研究所客員准教授(2014~17年)・客員教授(2021~22年)、追手門学院大学客員研究員(2018~21年)、横浜創英大学非常勤講師(2018年~23年)。

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