「夢を持て」は逆効果?子どもの《職業観》、保護者世代との違いで意識すべきこと

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お子さまと「将来就きたい仕事」について会話をすると、思いもよらない職業を挙げて驚いたという経験をお持ちのかたもいらっしゃるかもしれません。
「親世代と子ども世代とで、仕事のとらえ方が違う!」など、職業観のギャップに戸惑いを覚えることもあるでしょう。

なぜ、そのようなギャップが生まれるのでしょうか。そして、保護者のかたにはどんな心構えが必要なのでしょうか。まずは2つのアンケート結果をご紹介します。

この記事のポイント

小学生がなりたい職業ランキング:1位は不動の……

「進研ゼミ小学講座」で小学3~6年生の会員18,802人に「なりたい職業」を聞いたところ(※1)、4年連続で「YouTuber」が1位に。

また、「先生」「医師」など、時代を超えて人気の職業も挙がる一方で、「アニメーター」「ゲームクリエイター」など保護者世代ではなじみのなかった職業もランクインし、時代の変化が職業観に反映されることをうかがえる結果となりました。

子どもの職業観に戸惑いを覚える保護者も

全国の保護者のかたに実施したアンケート(※2)では、子どもとの職業観の違いに「戸惑いを覚えたことがある」という声も多く聞かれました。

「私には理解できなかったり、教えてあげられない職業が増えた」(福岡県・小学6年生の保護者)

「新しい職業や、まったくわからない分野の職業がどんどん増えていて、それを選択肢として子供に伝える術が親のほうにないことを残念に感じています」(京都府・小学3年生の保護者)

「子どもが仕事につくころに、本当にその仕事が存在しているのか(ロボットやAIが代わりに行っていたりする可能性がありそうで)心配になります」(東京都・小学1年生の保護者)

AIの発展や職種の変化などにより、保護者のかたから子どもへのアドバイスが難しくなっているという悩みが垣間見えます。

つきまとう不安の中で「どうしたい?」を求められている

職業観は、社会環境などからも影響を受けるもの。ギャップを生じさせる背景や、現代の子どもの職業観の特徴、保護者にできるサポートについて、ベネッセ教育総合研究所・教育イノベーションセンター長の小村俊平(こむら しゅんぺい)氏に聞きました。

──なぜ、世代によって職業観のギャップが生じるのでしょうか?

もちろんご年齢にもよりますが、総じて、世代による社会環境の違いが大きいでしょう。端的にいえば「社会の変化に期待感を抱き、努力は報われると信じられた保護者世代」と「成熟社会の中で、ランダム要素を強く意識し、不安がつきまとう子ども世代」という違いがあると考えています。

──それぞれ詳しく教えてください。

保護者世代では、経済成長にかげりこそ見えていたものの、インターネットなどの登場で「世の中が劇的に変わっていく」という期待感がありました。さらに、子どもの数も多く競争社会。努力をして、競争に勝って上を目指そうというムードがありました。

その一方、子ども世代は生まれた時からずっと日本は不景気。中国やシンガポール、インドなどの国々が経済成長するなか、国際社会における日本の地位は低下し続けてきました。グローバル化とデジタル化が進展し、先行きが見通しにくい社会ともいえます。

仕事についても「AIに仕事が奪われるかもしれない」というようなネガティブな話を耳にする一方、個性が尊重される時代でもあり「あなたはどうしたい?」と問われます。将来に期待しにくく、不安や焦りを感じやすい状況になっています。

「努力して成功」よりも「ガチャ」を意識?

──現代の子どもの職業観には、どのような特徴があるのでしょうか?

まずは、「稼げる仕事がしたい」という志向の高まりです。「お金持ちになりたい」と答える子どもの割合は、年々高まる傾向にあります(図参照)。先ほどご紹介したような不安を抱えている世代だからこそ、安心材料の1つである「収入」を重視しているのかもしれません。

また、社会の成長を目の当たりにしてきた保護者世代とは違い、子ども世代は「努力は報われる」という実感が持ちにくく、「ガチャ」といわれるような社会経済格差などを意識しているように感じます。努力して成功をつかむというストーリーを描きづらくなっているのではないでしょうか。

──ほかに挙げられる特徴はありますか?

「社会のためになることをしたい」と考える子どもが増えています。震災やコロナ禍を当事者として経験したことで、利他的な価値観が高まっているといわれています。これは、日本だけでなく世界で見られる特徴です。

会社選びに関しても、保護者世代が知名度などを重視しがちだったのに対して「社会にとって良いことをしている会社に行きたい」という視点が高まっています。

保護者にできることは?「やりたいこと」を問うよりも大切なこと

──保護者のかたには、どんな意識が必要なのでしょうか?

まず考えたいのは、「夢を持て」「やりたいことを見つけよう」というメッセージが、時には子どもの焦りを生む可能性があるということです。

現在の子どもたちは、親世代のころとは比較できないほど、たくさんの情報に囲まれています。そのなかで、大人の期待に応えようと真面目に考えている子どもたちが少なくありません。そこで「やりたいこと」を問うと、子どもをより追い詰めることになりかねません。

夢ややりたいことを最初から持っていたら素晴らしいですが、多くはさまざまな活動をするなかで見つかるものだと思います。自分は何に惹かれるのか、どんな時が楽しいのかを子どもがじっくりと考えられる時間をつくることが大切ではないでしょうか。

また、変化の激しい社会の中では、これまでのように将来から逆算して進路を考えるのにも限界があります。これからますます大切になっていくのは、変化に対応できる柔軟さです。だからこそ、さまざまな学習や経験を積み重ねて、選択肢を増やす「末広がり型」のサポートを考えてみるのがよいのではないでしょうか。

何か興味あることが見つかったり、できることが身に付いたりしたら、それに別の何かを掛け合わせてみる。その掛け算によって、人生の可能性が広がります。これからどうなるかはわからないけれども、今まで積み重ねてきたものは無駄にならないと思えるような自信を持てたら素敵ですね。

多様なことを経験し、知識や見識を深めること、学んだことを使ってみること。これらの経験から得られるわくわく感は、将来への期待を高めていきます。

──具体的には、どんなサポートができるでしょうか?

「いつもと違う人・場所と接する機会をつくること」「保護者のかた自身が、挑戦のプロセスを見せること」の2点を意識してみるとよいのではないでしょうか。

1点目の「いつもと違う人・場所と接する機会をつくること」は、子どもの視野を広げて「自分ってこういう人だよね」という思い込みの壁を破るきっかけになります。いつも、同じ学校の友達や家族と接しているだけだと、考え方も行動も固定化してしまいますよね。

少子化が進み、一つの学校では野球やサッカーのチームをつくれなかったり、学校内に同じ趣味の友人が見つからないといったことが増えています。意識的に違う環境に顔を出さなければ、せっかく何かやりたいことがあっても、「自分は変わっているのだ」と思って手を出しにくくなってしまうかもしれません。

サマーキャンプや、地域のお祭りなどの活動、最近では博物館や科学館、地元の大学などでもさまざまなワークショップが行われているので、これからの夏休みに足を運んでみるのもよいと思います。

──2点目の「保護者のかた自身が、挑戦のプロセスを見せること」は、なぜ子どもの職業観を高めることにつながるのでしょうか?

「努力を信じられるようになる」可能性を高めるからです。

語学でも筋トレでも何でもいいんです。努力する姿を見せ、たとえ成果が出なくても「こんな学びがあった」と楽しむ姿を見せること。一番身近な保護者のかたのそんな姿で、努力へのイメージはアップデートされるでしょう。
与えられた課題をコツコツがんばる努力は大切ですが、これからもっと大切になるのは、自分自身で工夫し、手ごたえをつかむような努力です。これは、あれこれ言うより「背中で見せる」のが一番だと思います。

「気にはかけるけど、手出しはしない。子どもが自分でできるようにする」「機会を与え、その機会で感じたことや考えたことを一緒に話し合う」。完璧な方法はないのですから、焦らずに無理のない距離感を意識してみるのがよいのではないでしょうか。

まとめ & 実践 TIPS

保護者世代と子ども世代とで職業観にギャップが生まれる背景に、ドキッとしたかたもいらっしゃるのではないでしょうか。変化が激しい社会の中でもお子さまが希望を見つけていけるように、適切な距離感でサポートしていってあげられるとよいですね。

(出典)
※1
小学生18,000人への意識調査
実施時期:2023年11月10日~26日
対象:「進研ゼミ小学講座」の小学3~6年生の会員
調査手法:WEBアンケートによるベネッセ調べ
回答数:18,802人

※2
子どもの職業観に関するアンケート
実施時期:2024年5月16日~23日
対象:小学生・中学生・高校生のお子さまをお持ちの保護者のかた
調査手法:WEBアンケートによるベネッセ調べ
回答数:2,568人

※図
東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2023」より
https://berd.benesse.jp/shotouchutou/research/detail1.php?id=5929

プロフィール


小村俊平

1975年東京生まれ。全国の自治体・学校とともに、次世代の学びの実践と研究を推進。全国の教員との毎週のオンライン対話会「気づきと学びの対話」、中高生との定期的なオンライン対話会「SDGsユース」、中高生との探究的な学びのコミュニティ「ベネッセSTEAMフェスタ」を開催するなど教育イノベータが集まる場を主宰しており、学校や家庭の学びの変化や先進事例に詳しい。
これまでにさまざまな官庁や自治体の委員、大学・高専・高校の委員やアドバイザーを務めており、複数の学校設立に携わるなど初等中等教育から高等教育まで幅広く活動する。また、OECDシュライヒャー教育局長の書籍翻訳等の経験があり、国際的な教育動向にも詳しい。
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