今求められる「学習者目線の学び」とは?3人の教育関係者が語る《学び続けるために必要なこと》

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人生100年時代において、子どもだけでなく大人も学び続けることの重要性が高まっています。そうした状況を受けて、学校は、教員が一方的に教える場から、学習者が主体的に学ぶ場へと転換が図られています。

学習者目線の学びを実現するには、どのようなことがポイントになるのでしょうか。3人の教育関係者に意見をお聞きします。

※本記事は、2024年10月に行われたオンラインイベント「生徒の気付きと学びを最大化するプロジェクト:学習者目線の学校づくり」(主催:ベネッセ教育総合研究所)の内容を編集したものです。
(イベントモデレーター:ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター 主任研究員 庄子寛之氏)

この記事のポイント

成長するにつれて、どうして勉強が嫌いになるのか

育児や教育について多数の現場を取材してきた編集者・ライターの太田美由紀氏は、自身の子育て経験も含め、「赤ちゃんのころは学びが喜びであったはずが、どうして成長するにつれて勉強が嫌いになるのか」という疑問を抱くようになったと言います。

太田氏は、多くの学校を訪問する中で、いきいきと学ぶ子どもや、やりがいを感じながら働いている先生に数多く出会いました。そこで感じたのは「先生や保護者が、子どもが主体的に学べる環境をつくることが、子どものいきいきとした学びにつながる」ということだったと語ります。

大阪府教育庁(大阪府教育委員会)の小林大志氏も、「一人ひとりの子どもが持っている興味・関心を伸ばすという視点を、大人が持ち続けることが大切です」と述べ、大阪府は子どもに寄り添う姿勢を学ぶための教員研修を行っていると説明しました。

また、東京都日野市のフリースクール「ももの木」の代表を務める寺前桃子氏は、以前、公立の小・中学校に勤務していました。その際、1クラスの児童・生徒数が多く、一人ひとりに合った学びを提供できないもどかしさから、公立学校を退職し、自らが理想とする教育を実現するためにフリースクールを立ち上げました。

「ももの木」に通う子どもは全部で15人。1日に通うのは最大でも8人のため、教科書やカリキュラムにとらわれず、教員が毎日一人ひとりに合った学びを提供しています。

寺前氏は、「子どもがやりたいことを私たちが読み取り、対応できる余白があるため、子どもは安心して好きなことを学んでいます。私自身も子どもから学ぶことが多く、大きなやりがいを感じています」と語りました。

写真左上/小林氏 写真右上/寺前氏 写真左下
/太田氏 写真右下/庄子氏(モデレーター)

子どもの興味・関心から学びを広げて

太田氏は寺前氏の話に賛同し、「子どもが発するつぶやきを丁寧に拾い、安心して授業に参加できる環境を整える教員の姿勢は、子どもの学びを深めることにつながります」と述べたうえで、さらに自身の息子が小学生の時に出会った先生とのエピソードを紹介しました。

太田氏の長男は、美術大学を卒業して現代アートを手掛ける美術家として活動しています。小学校時代はまったく勉強せず、教科書は落書きだらけだったそう。3年生の担任からは「教員の言うことを聞いてくれません」と泣かれてしまったこともあったと言います。

人生を大きく変えるきっかけになったのは、5年生の時の担任の先生との出会いでした。

「彼の授業中の落書きをほめてくれたのです。絵が好きなことを認め、『国語のこのシーンを絵に描いてみれば』などと、絵を入り口として興味を広げ、学校の学びにつながるよう声をかけてくださいました。そうしたことが続くうちに、学びに対して前向きな気持ちになり、その後、美術大学に進学。大学では、絵画の歴史や人間の心理などにも興味を持つようになり、哲学や民俗学なども意欲的に学ぶようになりました」(太田氏)

一見学校の授業とは関係ないように見えることでも、本人が興味を持ち集中して取り組んでいることをきっかけに学ぶことの面白さを体験することができる。そこから学びを深めていくことによる成長は目を見張るものがあったと、太田氏は自身の体験から語りました。

周囲の大人も学び続けることが大切

美術科教員でもある小林氏は、「教員はつい自分の教えたいことを優先してしまう傾向がありますが、私は『この問いかけをしたら、生徒がどんな反応を返してくれるかな』と楽しみにしながら、授業を設計していました」と、教員側からの意見を語りました。

さらに小林氏は、学習者目線の学びを実現するためには、周囲の大人も学び続けることが大切だと強調します。

「指導主事の業務の中で、私の専門である美術教育に関するものはごく一部ですが、どの業務も自分の視野を広げてくれると感じます。子どもの興味・関心を広げられるよう、保護者のかたにもさまざまなことにアンテナを張り、学び続けてほしいと思います」(小林氏)

登壇者による意見交換中、視聴者からは
「子どもも大人も学び合える、対等なつながりが持てる寺前さんのスクールは、居心地がよい場なのだと思いました」
「太田さんの話は、子育てのヒントになりました。小さいころからやりたいことを止めなければ、そこから学びは広がり、自分で学ぶ力が身に付くのではないかと思いました」
など、多数の意見が寄せられました。

人生100年時代において、学び続けることはすべての世代にとって重要なテーマといえます。学習者の興味・関心を尊重しながら、共に学び合う姿勢を持ち続けることが、これからの時代を生きる力になるのかもしれません。

プロフィール

大阪府教育庁市町村教育室小中学校課 主任指導主事 小林大志

様々な活動の一つとして、完全な暗闇の中で様々な原体験をする「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」というワークショップを指導主事研修に導入し、教室における子供の視点や感じ方に思いを馳せることで、教員の視点や価値観の変革に臨んでいる。

プロフィール

第2の学校「ももの木」代表 寺前桃子

1988年兵庫県生まれ。3児の母。大学卒業後、兵庫県で中学英語教師を4年。その後、東京都教員採用試験に合格し、小学校教師を4年間務める。その後、不登校の児童を対象とした学習支援、心の拠り所を目的に、東京都日野市多摩平で「ももの木」を開校。これまでの生徒数は延べ4,000人以上。こどもたちに寄り添った学習支援が得意。

プロフィール

フリーランス 編集者・ライター 太田美由紀

1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。著書に『新しい時代の共生のカタチ〜地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)がある。ベネッセの教員向け情報サイト「VIEW next ONLINE」にて、「子どもと教員がいきいきと動きはじめる学校 ~今すぐできる12の転換~ 」を連載中。
https://view-next.benesse.jp/innovation/person/otamiyuki/

(モデレーター)

ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター 主任研究員 庄子寛之

公立小学校の教員を20年近く務めた後現職。
臨床心理学科を修了し、人をやる気にさせる声かけや環境づくりを専門とする。
全国各地で研修を行い、研修回数は400回を超え、受講者も10,000人以上となる。
https://benesse.jp/expert/10016.html

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