解消されない先生の多忙化…「教育の質」も心配

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教員の多忙化を解消するための「働き方改革」が進められているものの、公立学校教諭の平日1日当たり平均在校時間は、6年前に比べ約30分しか減少していないことが文部科学省の調査でわかりました。
2022年度の1日あたりの平均在校時間は、小学校10時間45分、中学校11時間1分でした。新学期が始まっても必要な数の先生がそろわない「教師不足」も、各地で起こっています。
先生が疲弊していたり、数が足りなかったりしていては、教育の質が低下する心配もあります。

この記事のポイント

残業の上限、多くがクリアできず

文科省は2019年、深刻な教員の多忙化を解消するため、超過勤務(残業時間)を月45時間以内などとする上限ガイドラインを定めて「働き方改革」を進めたうえで、16年度勤務実態調査と比較可能な形で再調査を行うことにしました。

今回、その速報値が公表され、上限を超えて働いていた教諭は、小学校で64.5%、中学校で77.1%もいました。
月80時間の残業という「過労死ライン」を超えて働いていた教諭も、小学校で14.2%、中学校で36.6%と、6年前より各20ポイントほど減ったものの、それぞれ7人に1人、3人に1人を占めます。

「教師不足」も依然深刻

教師不足については、文科省が2021年度に全国の状況を調べており、公立小中学校で4月の始業時に2,086人、5月1日になっても1,701人が不足していました。
末冨芳・日本大学教授らの調査では、22年4月の始業時、公立小の40.5%、公立中の45.8%で教員不足が起きているとの回答がありました。

背景には、国の教職員定数改善計画が15年間にわたって策定されず、正規教員を大幅に増員できなかったことや、全国で教員採用倍率が低下し、以前なら不合格になった層まで正規採用しなければならず、教職浪人を非常勤講師に充てることが難しくなっていることなどがあります。
不足分は現員で補わなければならないため、学校はますます疲弊することになります。

1兆円以上の財政支出が必要

では教員の処遇を良くしたり、正規採用を増やしたりすればいいではないか……と思うところですが、そう簡単ではありません。
与党自民党の特命委員会は、残業代に代わって教員給与に上乗せされる「教職調整額」を現行の4%から10%以上に引き上げたり、中学校も35人学級(現行40人)にしたりするなどの改善策を固めました。
委員長の萩生田光一政調会長(元文部科学相)によると、約5,000億円の国費投入が必要になるといいます。国の給与負担率は3分の1ですから、地方を合わせると1兆5,000億円にもなります。

まとめ & 実践 TIPS

現行の学習指導要領では、子どもが生涯にわたって活躍できる「資質・能力」を育てるために、「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング=AL)による授業改善が求められています。
授業研究の余裕がないほど先生が多忙化していたり、そもそも数が足りなかったりしていては、子ども一人ひとりの資質・能力を十分に伸ばすこともできません。
文科省は新型コロナウイルス禍を契機に「個別最適な学びと協働的な学び」の充実を掲げていますが、そのためには政府や地方を挙げての抜本的な改革が欠かせないようです。

(筆者:渡辺 敦司)

教員勤務実態調査(2022年度)速報値
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/mext_01232.html

#教員不足をなくそう緊急アクション 緊急アンケート結果(途中経過)
https://action.hp.peraichi.com/kyoinbusoku

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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